一家にシンシアがふたり・2
親の名を子供につけるのは聞いたことがあるけれど。
子供ふたりに同じ名をつけるのは珍しいような気がする。どちらが呼ばれたのか分かりにくい。
それで「おかしくない?」とぴぃちゃんに聞いてみた。
けれども、賢くてもぴぃちゃんは鳥さん。人の名付けについては知らないらしく、首を傾げる。
「……。まあ、おかしくても、逃げ出すほどじゃない」
逃げるのは、おかしいと思うことが溜まってからにする。クリスティナはそう決めた。
「シンシア・ティナ」でピンときた通り、シンシア・アンもアルバ家へ引き取られるまでは、ただのアンだったそうだ。
クリスティナにとって「シンシア」と聞いて一番に浮かぶのは、シンシア・マクギリス。
「ねぇ、アン。本当のお歳はいくつなの?」
「シンシア・ティナ、今後は七歳と言いなさい」とアルバ夫人に命じられた日に、ふたりきりの部屋でアンに聞いてみた。
あなたも私もシンシアだから、他の人のいないところではお互いにアン、ティナと呼ぼうと提案し了承された。
アンはなにを提案しても「うん」と言うと分かったので、クリスティナは気楽なものだ。女の子のお友達とはこういうものかもしれない。
「たぶん六歳になったところ」
「七歳じゃないと思った。子供っぽいもん」
合点がいったクリスティナが深く頷くのを眺めるアンは無表情。それがアンの普通で、見慣れてきた今は「怒ってるのかな」と心配にはならない。
シンシアお嬢様は七歳。それがどうにもひっかかる。
クリスティナは頬に指を添えて思案した。
マクギリス家の治めていた城砦のある地方を今治めているのはウィストン家。ヤマネコ・ハートリー家の上に立つ家だ。
オヤジは「あいつらの勝手な支配」と言っていた。
ジェシカ母さんのくれた本に書いてあることが本当なら、マクギリス家の領地とは言いきれない。古い盟約により騎士四家で治めることになっているのだから。
オヤジは「支配力も統治能力もない家に口出しする権利はない」と鼻先で笑い、「そんなこと言ってると、いつかあんたにそのまま返ってくるよ」とジェシカ母さんに注意されていた。
などと思い出しつつ、アンが眠ってから「ぴぃちゃん」と呼ぶ。
呼び終わる前に「はい、ぴぃです」と姿を現した。
「ねぇ、ここは騎士四家でいうなら誰んちに近いの?」
ぴぃちゃんが波線を描くように走る。とととっとかわいいけれど、意味不明。
「ぴぃちゃん。まったく分からない」
それならとばかりに、ぴぃちゃんが翼を広げてから頭を隠しバタリと倒れる。そのままの姿勢で震える。
ぴぃちゃんの怖いもの。クネクネ動いて……
「クサリヘビ、クサリヘビ?」
ずるちゃんか。起き上がり「そうです、そうそう」のダンスを踊るぴぃちゃんを見ながら、当たったことに満足する。
四家しかないんだからひとつずつ名前を言って「このおうち」と教えてもらえばよかったかも。考えつくのが遅すぎた。




