一家にシンシアがふたり・1
クリスティナの短髪と男装は旅の安全のためだと兵隊さんが説明し、アルバ夫妻は納得したらしい。
「一年もすれば伸びて目立たないでしょう」
髪の短さをアルバ夫人は気にしなかった。
クリスティナの生い立ちについては、兵隊さんが「育て親に問題があり引き離したが、元の親はまとも」と、元の親を知りもしないのに伝えていた。
「親は山賊です」と言ったら愛娘の側に置くはずがない。そこはクリスティナも黙るのが正解。
「シンシア・アンは、このおうちの子じゃないの?」
ひとつ聞いても半分しか返らないシンシア・アンとの会話。
断片を繋ぎ合わせて出た答えに、シンシア・アンはこくりと頷いた。
質問攻めにしてようやく分かったのは「捨て子同然の境遇からアルバ家に引き取られた」。
「一緒!」
私も私も。親近感から身を乗り出すクリスティナに、シンシア・アンは少しだけ嬉しそうな顔をした。
「ねえ、ぴぃちゃん。おかしくない?」
ヒソヒソ声なのは、つい立ててで仕切られているもののクリスティナの部屋とシンシア・アンの部屋がほぼ同室だから。
夜ひとりで寝るのが苦手なクリスティナにとってはありがたい。
薄桃色の羽先を扇のようにフリフリするぴぃちゃんは今日もかわいい。
でも昨日とんでもないことを知った。
「なにかあったら助けてね」と頼ったクリスティナにぴぃちゃんが見せた動きは、いつもとは違うものだった。
「ん? ちょっと難しい……。なに、なんだろ」
ダンスのひとつずつに言葉をあてていって理解したのは。
「『ぴぃは地元を離れると力を発揮できなくなります。ごめんなさい。でも、いないよりはいいと思うので』って?」
おおむね合っている、と、ぴぃちゃんが羽ばたきで丸を作る。
「よかった、やっと当たった……じゃなくて、えええっ!?」
あてにしてたのに。そんなことってある?
縄張りを離れると非力だなんて先に教えて欲しかったですよ、ぴぃちゃん。
クリスティナはがっくりと肩を落とした。
ということがあったのだ。
そして今日の驚きは。
「クリスティナ、今日からシンシア・ティナと名乗りなさい」
アルバ夫人はいかめしい顔で一方的に告げた。