ウォードの気がかり
屋敷に戻り、父への手紙を書き上げブレアに渡すと、ウォードは目を閉じて黙考した。
男子校で性別を偽って生活する。そんな真偽不明の話を聞いたことがあるが、その女性はかなり体格がよく骨太なのだろう。
クリスティナはあれで年相応の身長だろうが、ウォードから見れば小柄で骨も細い。
男だと言い続けるのは無理がある。いつか見破られる、と思えた。
それを弱みとしてつけ込んでくる卑劣な奴がいるかもしれない。ウォードの気がかりはそこだ。
神学校へは行かせられない。だからといってウォードにはどうする力もない。
十六歳は大人ではあるが、ひとひとりの生活を支えるには不充分だ。
「……様。若様」
ウォードが目を開けると、ブレアがこちらを窺っていた。どうやら手紙はこれでいいらしい。
ブレアが親子の仲がうまくいくよう心を配ってくれているのは、知っている。口にしたことはなくても、感謝の気持ちはある。
相性の悪い父に嫌われずにすんでいるのは、ブレアの力によるところが大きいのだ。
「封をして届けてくれ」
「心得ました」
しばらくひとりでいたい。わかりやすい態度を取っているのに、ブレアはまだそこにいる。ウォードは露骨に眉をひそめた。
「なにか用でも?」
ないなら出て行ってくれ。後半を飲み込むのは年長者に対する遠慮。
ブレアはいかにも思案中であるというように、ゆっくりと切り出した。
「私が手紙を届けにゆき、しばらく留守にしても構いませんか」
山狩りについての詳細は、治安部隊からウィストン伯へ報告され、その後父も目を通す。
だからウォードの手紙は「行きました。帰りました」といった程度のもので、下の者に任せてよい。なぜわざわざブレアが出向く。
疑問をそのまま表情にすれば、軽く一礼が返った。
「少し遠回りになりますが、寄りたい所がございまして」
思いつくことがあった。
「――。寄って、どうする」
「そこまでは考えておりませんが、状況を把握できれば若様のお顔から険しさが消えるかと」
「この顔は元からだ」
茶目っ気のある表情をしたブレアに、ついむっとして言い返した。
「それはご無礼を。急ぎ支度をして出ることといたします。留守の間――」
「いちいち言わずとも、分かっている。さっさと行け」
ウォードは挨拶を遮って告げると、用は済んだとばかりに目を瞑った。