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シンシア・アンとクリスティナ

 兵隊さん達はクリスティナに「どうする?」と聞いてくれた。断れないのが分かっているから「一応」という感じ。


 これでクリスティナが後ろ向きな態度を取れば、なだめられるだけと分かっている。お返事は「はい」だけだ。



 先生のたくさんいる学校より、嫌になった時に逃げ出しやすいかもしれない。それに追っても来ないと思う。

 どうしてもの時はぴぃちゃんにお願いしてここを出よう、そうしよう。決めてすっきりとした。







「ここまで、ありがとう。気をつけて行ってね」


 翌朝、次の村で男の子を待って学校まで連れて行くという兵隊さん達にお別れの挨拶をすると、ふたりは涙を堪えるように瞬きをした。


「ごめんな」

「体に気をつけて過ごせよ。親と再会できるよう祈ってるから」


 兵隊さんが謝らなくてもいい。よく聞けば、ジェシカ母さんはクリスティナがどこの学校へ行くか知らなかったそうだし、男の子だとみんなが思い込んだのも、間違えていると気がつくのが遅かったのも、誰が悪いというわけでもない。


 拙いなりにそう返すと、兵隊さんはクリスティナの手を両手で握り目を潤ませた。


「時間ができたら様子を見に来る」

「次に会う時はキャンディを持ってきてやるよ」

「ありがとう、待ってるね」



 嬉しそうなお顔をしてみるけれど、きっと来ないとクリスティナには分かっている。

 言ってくれるその気持ちは嘘じゃない、でもいつものお仕事に戻れば気持ちが薄れていくのも本当。


 私だって、メイジーお母さんを待っていたことがあった。でもジェシカ母さんといるうちに顔も忘れかけている。

大人だってそうだろう。



 兵隊さん達は別れを惜しみつつ隣の村へと発ち、クリスティナはひとり残された。







 シンシア・アンは少しのんびりした女の子で、七歳と聞いたけれどそれより幼く見える。


 クリスティナにもクリスティナの持ち物に興味を示さない。というより、とてもおとなしい。


 メイジーお母さんなら「子供が消極的な姿勢なのはよくない」と目を三角にしただろうし、ジェシカ母さんなら「なんだいなんだい、元気がないね」と背中を押しただろう。



 まずは気心がしれたほうがいいと、シンシア・アンの部屋に子供ふたりにされた。


 ここはひとつ仲良くなろう。クリスティナが「とっておきのキャンディを食べる?」と聞くと、こくりとする。


「はい、どうぞ」


 渡しても包み紙をはがしもせず見つめているので、クリスティナがお世話をやいた。

口にいれてあげると、かすかな声で「おいしい」と言う。



「よかった。私ももらったのを大事に食べているの」


 内緒話のように声をひそめて伝える。くれたのはウォード、優しいの。お顔の傷だって見慣れるとカッコよく見えるんだから。


「泣いてる」

「え?」


 なにを言われたのか理解できなくて聞き返したクリスティナに、今度ははっきりとした声でシンシア・アンが言う。


「涙が出てる」


 クリスティナは自分が泣いていると、ようやく気がついた。


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