シンシア・アンの勉強友達
アルバ家の悩みは、ひとり娘シンシア・アンに釣り合う女の子が身近にいないこと。
子連れの家庭教師を頼むしかないが、家庭教師はお金がかかる。ある程度のことなら自分が教えられると考えるアルバ夫人にとっては不要な出費だ。
そこで「教育を受けたい同じ年頃の女の子を預かればいいのでは?」と思いつき、ものは試しと探し始めたところにクリスティナの話を聞きつけた、とまあこういうわけだった。
大人が話している間、少し離れたところでお人形遊びでもしていなさいと言われたクリスティナは、シンシア・アンと向い合わせに座りながら、耳は盗み聞きに集中していた。
「では、食費だけでよろしいと」
「もちろんです。うちには使用人もおりますので、娘さんを働かせることはありません」
「詳しくはお話できませんが、事情によりこの子は親と離れて暮らすことになりました。食費と言っても、お渡しできる額はこのくらいしか」
「かまいません。いただかなくてもいいと思っているくらいですから」
クリスティナをアルバ家に預ける方向で話はトントン拍子に進んでいく。
ちょっとうますぎるように感じるけれど、兵隊さん達にすれば次の策があるわけじゃなし、片目をつぶって良さそうなところだけ見ようというのだろう。
クリスティナも男の子ばかりの学校で過ごすのは、少し自信がない。アンディを思ってもわかるように、女の子である自分とは年々体格差が開くはず。
なにがどうとは言えないけれど、頑張っても勝つのが難しいことはいくらでもありそうに思える。
それなら前もしたことのある「お嬢様のお勉強友達」のほうが、向いている気がする。
どうせ大人が話を決めるから、子供の意見なんて聞いてもらえないのだけど。
シンシア・アンはどう考えているのだろう。
金髪を二本のゆるい三つ編みにして女の子によくあるエプロンドレス姿の彼女は、見た感じクリスティナよりふたつくらい歳下のようだ。
人形遊びをしなさいと言われて「はい」と答えたあとは、人形を抱いて髪を撫でるだけで楽しそうでもなく、こちらを気にする様子もない。
お嬢様らしく顔に気分を出さないことが身についているのかもしれない。
この教えもここ数年忘れていたことだ。
昔はこれが普通だと思っていたからなんでもなかったけど、山賊を知ってしまった今となっては山の暮らしが恋しい。
ため息を叱られないよう、息を細く吐き出すクリスティナを、シンシア・アンがじっと見つめている。
しまった!
クリスティナは慌てて愛想笑いを作った。




