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クリスティナのご挨拶力

 どこか間違えたか。大人より先にご挨拶してはいけなかったとか?

クリスティナの頭は猛回転を始める。



 子供が複数いるところで、子供がご挨拶したら返すのは子供でよかったはず。


 それで「いや、利発なお坊ちゃんだ」とか「まあ、お小さいのにきちんとご挨拶ができて、先が楽しみですわね」なんて、お決まりの言葉がかかる。


 母メイジーは「褒められたと思って頬を緩めてはなりません。決まりきったお返事ですから、真に受けたりしては恥ずかしい」と言っていた。


 淑女は握手をするけれど、それも時と場合による。クリスティナのような子供がそんなことをしたら、後からものすごく叱られる。




 ジェシカ母さんと暮らす間は思い出すこともなかったのに。まるでつい最近のことのように母メイジーの教えが甦るのには、クリスティナ本人もびっくりだ。


 あれだ、動物の躾と同じ。

『幼いうちから叩き込んでおけば、体で覚えて自然にふるまうことができます』



 母メイジーは、シンシアお嬢様のお手本となるべく娘を躾けていた。


『そこまでの礼儀作法はいらないのに、何様のつもりかしらね。クリスティナお嬢様とお呼びしなくちゃならなくなるわよ』

『ひとり親だから無理してらっしゃるのよ。私達も見習わなきゃ、あの向上心は』


 マクギリス伯の奥様つき女性使用人達の会話では「向上心」が悪口に聞こえた。

こっそりと聞きながらクリスティナには意味が分からず、少し大きくなるまで覚えておこうと思ったものだ。


 そして理解できる歳になり、やはりあれは悪口だと知った。



 城砦には、妻子を地元に残して勤めている男性が多くいて、子連れで出勤している女性もいた。

クリスティナは当時なんとも思っていなかったけれど、うちはそれとは少し違ったらしい。




「素晴らしいわ」


 クリスティナを物思いから引き戻したのは、アルバ夫人の感嘆だった。


「あなた、なぜそんなご挨拶ができるの?」


 それは「教えられたから」に決まっている。でもひと言で済ませるのは感じが悪いかも。


「『田舎育ちとそしられてはいけない』と母が心配いたしまして」


 久しぶり過ぎて言葉遣いに自信が持てない。クリスティナの話し方は、いつもよりゆっくりとなった。


「お品もあるわ」


 いや、それはない。全面的に否定したいところを堪えるのはなかなか大変。


 大人達がうっすらと口を開けていたのは「まさかこんな子供がちゃんと挨拶するとは」と驚いたことによるものだった。


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