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クリスティナ 口上を述べる

 男の子にも準備がいる。一週間後に追いかけてくることになった。



 幾日か進んだ先の村へ徒歩で向かう途中、クリスティナ達に声を掛けてくる人がいた。


「失礼ですが、娘さんを預ける先を探しているというのはあなた様方ですか」


 問う形にしているけれど、確信があるのだろう。身なりの整った中年の男性の顔には、微笑が浮かんでいる。


「どちらで、その話を」


 平服でも兵隊さんの身のこなしは一般人とは少し違う。クリスティナをかばう位置に立つ。



 村へ続く一本道、たいして建物もない所にいたのは、私達を待っていたから、とクリスティナでも分かる。

兵隊さんが警戒するもの当然だ。


「名乗りもせず失礼いたしました。私はこの地に館を構えますアルバ家に仕える者でございます。当家では以前より女の子を探しておりまして、関係先からあなた様方の噂を小耳に挟んだという次第です」

「それで、ご用向きは」


 兵隊さんの語調が少し和らいだのはアルバ家の格がわからないから。格の高いお家に強く出て、上司に苦情を入れられては事だ。


 そのあたり子守りという仕事柄母メイジーがうるさかったので、クリスティナはふんわりとではあるが理解している。



「もうひとつ先の村まで行けば宿はありますが、子供連れでは日暮れまでに着くのは難しいでしょう。一宿差し上げたいと主人が申しております」



 兵隊さん同士が顔を見合わせた後、迷った様子でクリスティナを見る。


 私に任されても困ると思うものの、旅も長くなり兵隊さんにも慣れてきた察しの良い子としては、ふたりの言って欲しいことが分かる。



「ちょっと疲れたみたい」

「やはり隣村までは子供には酷です。先をお急ぎではございましょうが、ぜひ」


アルバ家の使用人は丁寧かつ熱心に勧めた。


「そこまでおっしゃるなら」


 兵隊さんが子供の意見を取り入れて誘いに応じるという態度をとる。本当は嬉しいくせに、大人は素直じゃない。


 やれやれと思うクリスティナを連れて、全員で少し離れた所に待機していた馬車に乗り込んだ。









「うちの娘、シンシア・アンです。仲良くしてやってください」


 アルバ夫妻は娘を伴って応接室へ現れた。濃い色の髪をした両親と違い、娘は金に近い髪の色。金髪は大人になると色が変わるので、今だけかもしれない。


「シンシア、ご挨拶は」


 厳しい母の声に、シンシア・アンはおずおずと会釈した。


「シンシア・アン・アルバです。ご機嫌よう、皆さま」


「名乗りが遅れましたこと御免くださいませ。クリスティナと申します、以後お見知りおき願います」


 膝を少し折り床に視線を一度落とす。口上を述べるのは姿勢を戻してからだ。

その際、背中は物差しが入ったかのようにまっすぐにしておくのが肝心。


 嫌味にならない長さの余韻を残し、相手と目を合わせる。

一連の流れをこなしたクリスティナが見たのは、少し口の開いた大人達だった。


どうかした?


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