山賊の娘が教養を身につけると
馬車に乗り、歩き、また馬車に乗る。それで三週間と少しで学校に着く予定。
クリスティナの眠っている間に兵隊さんの間で話が決まったらしい。
神学校に「ひとりの男の子」を入学させるのは絶対。
幸いなことに神学校にクリス少年の顔を知るものはない。
女の子を入学させるより、クリスと名乗って入学してくれる男の子を見つけ身代わりを仕立てたほうが、いいのではないか。
「神学校に通いたい子供は見つかりそうな気がする」
「一定数いるよな」
良いことを思いついた、俺ら賢いと喜ぶふたりは「それで行くあてのなくなった私はどうするのか」とクリスティナが疑問を持っていることに気が回らない。
そう都合よくいくわけが――あった。
泊まった宿屋で主人に相談を持ちかけたところ、酒場で顔役が飲んでいるから話してはどうかと勧められた、らしい。
思いがけず神学校に行けるのなら名前くらい変えるという男の子が見つかった。
そこでようやく兵隊さん達は「クリスどうする」となったらしい。
クリスティナは「『良いこと思いついた』は、やっぱりろくでもない」と今こそジェシカ母さんに伝えたい気持ちだ。
「だろ?」と笑ううんざり顔が見えるよう。
神学校は五年から七年で卒業するもので、その後クリスティナは好きに生きていいと聞いている。
卒業したらジェシカ母さんと暮らすつもりだった。
「神学校でなくてもいいから、どこか学校へは入れてくれないと、賢くなれない」
「お、おう」
クリスティナの主張に兵隊さんはたじたじになる。
いつだったか「いつまでも山賊じゃない、これからの時代は押し込み強盗が主流になる。クリスは大きくなったら引き込み役にぴったりだ」とオヤジが酔って言っていた。
「引き込み役ってなに?」
「大きな屋敷に食客でも使用人でもいいから入り込んで真面目に働いて信用させておいて、屋敷を調べつくす。それが引き込み役の仕事だ。時期がきたら手引きして野郎どもを屋敷にいれ、金目のものをいただく。そこまで含めて押し込み強盗の仕事だ」
ふうん、おおがかり。
「私がどうしてその引き込み役にぴったりなの」
「クリスは振り返るほどの美人じゃない、まずそれがいい。あまりの美人だと注目を集め過ぎて仕事がしづらい」
「ちょっと、親が子供を褒めなくて誰が褒めてくれるんだい」
ジェシカ母さんの文句が飛ぶ。
「……。可愛いから、金持ちの男の遊び相手や恋人になって家に上がり込みやすい。そのためには学をつけて『教養があるんですのよ、おほほほのほ』ってしないとな。頭の良い金持ちが好きなのはバカな女じゃない、自分より少しだけバカな女なんだ」
オヤジが作るしなを、ジェシカ母さんが心底嫌そうに見下す。
「教養の使いみちが間違ってる」
「バカ言え。引き込みこそ教養が金になる唯一の道だろが」
クリスティナが思い出した会話は、なにげない午後のひと時。
ふむふむ、使いみちが限られていてうまくやれば稼げるのが教養、と。
これからの時代山賊は流行遅れになる。将来のために教養を身につけて立派な引き込み役を目指そう。
将来の目標が決まったところで、進路探しだ。