クリスティナと兵隊さん
顔色をなくすって、こういうことなんだ。
実感したクリスティナと違い、兵隊さんふたりは「どうする」「どうする」と言いあっている。
ひとりが「俺達は神学校まで無事に連れて行き職員に預けることを命じられただけだ」と言えば「いや待て、それは男の子という前提があっての話だろう。そこが間違ってると分かったのに、報告も相談もせず命令を遂行していいのか」と、もうひとりが返す。
どっちの言い分も頷けるクリスティナは、ふんふんと聞くだけだ。
「俺達が間違えたくらいだ。このまま男の子で通るんじゃないか」
「それはお前、集団生活で無理があるぞ。楽観的すぎるだろ」
うんうん、それもそう。
「一旦戻るったって、山狩り隊は解散して『隊長』がいない。この子と親は会わせないと決められたから、親に返すわけにもいかない」
「戻るのはマズイって。学校には先触れがいってる」
「そうだった……。遅れたら、俺達が逃がしたと疑われてもおかしくないぞ」
なくした顔色は今度は青くなっているような。大の男が弱りきった様子で語り合う原因が自分だと思うと、申し訳ない心もちになる。
なにか妙案はないかと真剣に考えた。が、思いつかない。だってクリスティナはまだ子供だから。
「戻らないのは変わらない?」
子供が横から口を挟んだのに邪険にすることもなく、ふたりの大人が同じ角度で頷く。
ぴぃちゃんは、ちょんちょんとはねたり飛んだりしながら少し先を行っているから、今のところは学校へ行けばいいんじゃないかと思う。
「じゃあ、前へ進みながら考えよう。『いい考え』は歩いている時とぼーっとしてる時に思いつくってオヤジが言ってた」
なるほど一理、と兵隊さんが納得してくれたところで、「その『良い考え』はたいていろくでもないけどね」とジェシカ母さんが嫌そうにしていたのを思い出した。
それは黙っておくことにする。
しょうがない。クリスティナは背負っている持ち出し袋をおろすと、棒付きキャンディを取り出した。ウォードにもらったとっておきの一品だ。
なにが始まるのかと見ているふたりに「はい、あげる。特別よ。元気が出る」と一本ずつ手渡す。
あげるのは惜しい。惜しいけれど、ひとりで食べるのは欲張りのすることだから、よろしくない。
大人だって大変なのだ。兵隊さんより山賊のほうがいいお仕事だ、捕まらなければ。
オヤジも今度はもっとうまくやって欲しい。クリスティナはキャンディを口に入れた。