クリスティナは女の子なの
兵隊さんふたりと三人連れで、学校のある町へと行く。
野郎どもを見慣れているクリスティナには、大人の男の人ふたりと子供ひとりでも怖くはない。
親に似ていないと言われたので「育ての親だから。元の父の顔は知らない、母親は私を置いて出て行った」と話したら、親切にしてくれるようになった。話してみるものだ。
そして今日、お互いに困ってしまう事実が発覚した。
「クリスが女の子だと……!?」
「まさか!まさかだ!!」
ことの起こりは兵隊さんがこれから行く学校について話してくれたこと。
かつて警備を担当していたことを誇りに思っていると。
そこから「女人禁制」という言葉が出た。
「にょにんきんせい?」
ってなに。これであっているのかと復唱するクリスティナに、面倒がることなく教えてくれる。
「女人禁制とは女性は立ち入れないということだ。これから行く神学校は女性との接触を絶ち本気で学ぶ方々の為の学校なんだ」
「どうしてダメなの?」
「そりゃあ、柔らかくて気持ちよくて、そこにいるのに触れないなんて地獄のようなものだからさ」
ふうん。女の子の入学はいいけど接触はだめ。つい手や肩があたってしまったらどうするんだろう。
分からないことは聞くのが一番。
「じゃあ、生徒も男の子だけにしたほうがいいんじゃない? 私は別に構わないけど、触らないよう気をつける男の子が大変そう」
そんな学校にしないで女の子の学校に入れてくれればいいのに。
花嫁学校や手仕事の職人学校があるのは、クリスティナでもなんとなく知っている。
兵隊さんはクリスティナの発言にぎょっとした様子でしばらくお互いの顔を見つめ「お前から」「いやいや、俺はちょっと誤解してるかもしれない」と、会話を譲り合っている。
歩く足もいつの間にか止まっていた。二、三先で振り返ったクリスティナを、兵士が凝視する。
「どうかした? 疲れたの?」
聞いたクリスティナに首を横に振ってみせ「つかぬことを聞く」と遠慮がちにする。
「つかぬこと」が分からないけれど、どうやら質問の前につける言葉のようだから、気にしなくてもいいだろうと判断し、聞き流す。
「クリスは短い髪で、男の子の服を着ているよね」
「うん」
だって動きやすいし、オヤジも野郎どもも同じ服だ。母さんは前掛けを着けるからスカートだけど。
「違ってたら失礼だから先に謝る。クリスがかわいいから、ちょっとした勘違いをしたんだと思って欲しいんだが……まさか『男の子じゃなくて女の子です』なんてことは、ないよな」
勇気を出してさあ言うぞ、という心構えが見える。
かわいいと言われて嬉しいから、謝ることなんてないのに。クリスティナはにっこりとした。誉めてくれてありがとう。
「私は男の子じゃなくてちゃんと女の子」
聞きなれない鳥の声のような悲鳴は、クリスティナの口ではなく兵士の口からでたものだった。