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旅立ち

 ジェシカ母さんがあまりに普通だったので、クリスティナは泣くタイミングを失った。


 ウォードとさよならした時のほうが寂しかったような気がするのは、お家にひとり置いていかれたからだと思う。


 母さんは「しばらく離れて暮らすだけだ」と説明する。



「どうせ学校へは行かせようと思ってたんだ。自分のことだけしてりゃいい時なんて、人生にはそうそうないもんだ。よくお勉強してしっかり知恵をつけてきな」


 オヤジはここにいない。聞けば先に発ったという。


「会いたかったかい?」

「どっちでもいい」


 母さんの隣にいた剣を下げた男の人が、なんともいえない顔になる。


「普段世話をしない男親なんて、子供にしたらそんなもんさ」


 ジェシカ母さんの言葉に黙って頷いていたから、「オヤジにも会いたかった」と言ったほうがよかったのだ、たぶん。



「ちょっと会いたかったような気がしてきたみたい」


 クリスティナが小声で言い直すと「いらない気はまわさなくていい」と、母さんにからりと笑い飛ばされた。



 マクギリス領外へ出なければならなくなったオヤジは、ジェシカ母さんに言わせれば「何をしても食っていける人」なので、心配はいらない。


 ジェシカ母さんはしばらく城塞で賄いの仕事をするらしい。身元引受人が決まったらそこに移り住む。



「学校までの道中は長い。疲れたら『疲れた』、調子が悪ければ『痛い、寒い』と連れにちゃんと言いな。クリスになにかあったら私達がひと暴れもふた暴れもするってことは、この人達もよく分かってるから。だろ?」


 ひょろりと線の細い兵隊さんは、ジェシカ母さんに睨まれて怖かったのか「お任せください」と礼をする。


 顎を上げ胸をそらす母さんのほうが強そうに見えるし、きっと強い。



「クリス、狼と熊はどっちが強いんだった?」


 看板に熊の絵のついたお店は味方。覚えているかと念を押されているのだ。


「熊!」


 意気込んで答えるクリスティナに、ジェシカ母さんは満足そうにした。



「クリスについてはなんの心配もしてないよ。立派になるに決まってるからね。『鳥』は今も見えるんだろ?」


 ぴぃちゃんのこと。ジェシカ母さんは、時々「今も見えるのか」と聞いてくる。

クリスティナの返事はいつも同じ。


「元気でかわいい」

「なによりだ」



 ふもとの町までは親子一緒、そこで道の右と左に分かれる。


「ね、野郎どもは?」

「さあね、好きに生きるだろ」


 「アンディは」と聞かれないのでクリスティナも言わずに、母さんと手を繋いだ。


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