代償・2
斜めに布を巻いて額と片目を覆ったウォードの姿は、規律を守らせるための見せしめとなったようだ。
落とした城での略奪行為――器物から女まで――は、ある程度まで黙認とされているが、今回はまったくそれがない。
逃げ遅れて城に残っていた下働きの者達は、ひと通りの調べの後解放した。
親の代はこの城でハートリーに仕えていたという者が幾人もいて、このままここで雇って欲しいと申し出る。
ハートリー団の老兵と面通しし「昔なんとなく見た顔だ」「親の顔がわかる」などとなれば、そのまま雇用。ここ数日ウォードは、その立ち会いをしていた。
見ないふりをして誰もが注視していることには、もちろん気がついている。
つい先頃までマクギリスに仕えていた者達は、こう考えるだろう。
実の息子にあれだけのことをするのだから、他人にはどれほど苛烈だろうか、と。
こうして秩序を保ち、マクギリス家の城砦はハートリーの本家であるウィストン伯爵家のものとなった。
クリスティナのことは、ずっと気掛かりだった。ふとした折にどうしているだろうかと気になる。
しかし目立つ自分がゆくことにより存在が知れてしまうことは避けたいと思えば、探すこともできなかった。
こじつけの用事を理由にウォードが調理場を訪ねたのは、顔の傷も乾いた頃。
食事はすでに城内で支度し配食している。
さて、なにをどう聞いたものか。逡巡するウォードの側に寄ってきたのは、よく知る年輩の炊事員だった。
「ウォード様、聞きましたよ。傷の具合は」
同情の眼差しに「元々かすり傷だ」と返す。
「左目が見えなくなったって話は……?」
それには答えず「あの子供は」と尋ねる。
炊事員も誰をさすのかすぐに理解したらしい。
「臨時雇いの地元の女がいたでしょう。そのうちのひとりが見知っていて、一昨日雇い止めにした時に連れて帰りました」
炊事の手が足りず途中途中で現地の女を手伝いに雇っていた。ハートリー兵団も城が落ち着けば駐在する人員を減らすから、先立って解雇したのだろう。
マクギリスの娘を探してここに来た兵士に、土地の女達が「この子のどこを見てお嬢様だと思うんだ」と突っかかり、子供を守ったと語る。
幾度も戦場となったこの地は、女達の気が強くたくましいことで知られる。
さすがだと舌を巻く炊事員の顔はウォードの笑いを誘った。
聞こえる範囲にいる他の炊事員にも温かな表情が浮かぶ。気風のいい女達で、侵略者であるハートリー兵ともうまくやったのだろう。
「善きことをなさいましたよ、ウォード様」
ごく小さな声。
父には切りつけられたが。と目だけで返す。
「家を焼き、畑を荒らして、家畜を買い上げると言って僅かばかりの金で奪い、たくさんの血を流して。ひとつくらいは善行があったっていいじゃありませんか」
その呟きは立場上肯定できない。炊事員も心得ているから、これは独り言だ。
薬代わりの茶を勧められる。いつもなら苦いからいらないと断るそれを、ウォードは黙って飲み下した。
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