別れたのち・2
なるほど。雇われて敵方で炊事をするような女だ。男勝りで肝の座った人物なのだろう。
だからこそ、クリスティナを引き取り養育したに違いない。利用するなどと考えたりせず。
「会ってみたい気もするな」
ウォードの呟きを冗談と取ったブレアが微笑で応じる。
「直に話す機会はありませんでしたが、遠目にも器量の大きさが滲んでおりました。頭を好きにさせているという風情を隠しもしない、と言いますか。息子はどちらに似るんでしょうな」
息子。ブレアは髪の短いクリスティナを、男の子だと思っているらしい。
大らかな母に育てられたことで思いやりの深さが増したのは間違いない。
しかし階段の踊り場で初めて会った日も、ケガをしているのではないかと他人の心配していた。
ケガなどしていないと知って心底ほっとした幼い表情を、ウォードはありありと思い出せる。
少し色褪せた絵となっていたのに、クリスティナに再会して鮮やかに塗りなおされたもの。
「警戒すべき者とみなされなければ一家離散とはならなかったでしょうが」
「離散?」
頭と妻は離してもクリスティナと養母は共にいるのだと思っていた。
歩む速さはそのままで、問う口調が鋭くなる。
「学校を卒業した後、親と会うのは禁じないようです」
「『思想的に問題がなければ』だろう」
「親が連れ戻すことを危惧して親には場所を伏せると」
そうか学校に通うのか。おそらく、離散の条件として養母が勝ち取った権利なのだろう。交渉のしたたかさが見えると、ウォードは感心するばかりだった。
――ブレアが校名を告げるまでは。
「なんだと? 」
聞き取れなかったかとブレアが繰り返したのは、男子だけが在籍する神学校の名前だった。