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別れたのち・1

 クリスティナが別れを引き延ばそうとしているのは明白だった。ウォードだけでなく、どんなに鈍い者でも分かっただろう。


「うちのお仕事がおすすめできるお仕事だったら、一緒にいられたのに」


 肩を落とす様子は見ている側が慰めたくなるほどだ。


 

 クリスティナは職探し中の男だと思い込み、先行きを心配してくれているらしい。

そんなことより自分の心配をするべきだと思う。


「俺の心配はいい、食うに困ることはない」

「心配したい心配させて」

「なに?」

「お世話になったもの」


 子供らしく青みがかった白目はどこまでも澄んでいて、自分はずいぶんと遠くまで来てしまったとウォードに思わせた。

 親世代には「まだまだ青い」と言われていても、この純真さはないと言い切れる。



 別れを惜しむ気持ちはあるが、グズグズしていてはクリスティナの親と顔を合わせてしまう。困惑するのはお互いさまだろう。



「元気でいろ。よく食って大きくなれ」


 クリスティナに背を向け戸口に立て掛けた剣を取る。


「これ、持っていって」


 ウォードの手に柔らかいものと硬いものが触れた

柔らかなものはクリスティナの手、硬いものは殻つきのクルミだった。


「お腹が空いたら食べるとおいしい。悪い人にあったらぶつけて武器にしてもいいと思う」


 真顔で教えてくれるのは山賊の娘。養父母こそ「悪い人」だが、娘にとっては良き親であることは、暮らしている家の様子からも垣間見える。



「ありがたくもらってゆく。ではな」


 できるだけ丁寧にクリスティナの手を払い、今度こそ本当に背を向ける。


 無言が痛い。視線を感じて振り返りたい衝動にかられるが、もしも涙を浮かべていたら拭いてやりたくなる。

そしてまた、別れをやり直すことになる。


 繰り返すうちに親と鉢合わせるな、絶対。あっちもこっちも気まずい。


ウォードは意識して口の端を上げた。







 クリスティナの養い親が通るだろう道とは逆の方向へと向かうと、先でブレアが待っていた。


「隣の村に皆おります」


 急ぎ足で向かいながら、山狩りの解除とともに駐留軍から離れたとの説明を受ける。


「折り合いは、どうつけた」

「山賊集団は解散、頭夫婦は離縁し別居のうえそれぞれが移住することと決まりました」


 ウォードは内心の驚きを抑えてブレアに顔を向けた。


「離縁はさすがに重くないか」

「頭の妻は手下に対して頭と同等の影響力を持つ、と判断されたようです」


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