別れの気配・1
夕方には雲の切れ間から陽が差すようになった。
クリスティナはウォードといることにすっかり慣れてしまった。
子供とはこんなに人懐っこいものなのか。ブレアにでも聞けば分かるのだろうか。
二度目の差し入れの籠を回収したウォードは、紙切れが結んであることに気がついた。
戸口から振り返るとクリスティナは熱心に乾燥豆を選り分けていて、こちらを気にする様子はない。
紙片にはブレアの字で「山狩りの解除は明日正午」と書いてあった。
綺麗な薄紙で作った花束。両手で受け取ったクリスティナが思わず「わあ」と歓声をあげると、ウォードが「初めて見たのか」と聞く。
もちろん。このお花は枯れないからいつまでも飾れる。それに水換えもいらない。
くんくんと匂いを嗅いでみると、紙が鼻に触れてくすぐったい。
「作り物だ、香るわけがない」
呆れ声のウォードが手を伸ばし、真ん中から一輪抜いてしまった。そしてなんと花弁をめくる。
「ああっ」
ひと言に非難を詰め込んだクリスティナの眼の前に差し出されたのは、棒の先についたキャンディだった。
「年始に子供に配る飾り菓子だ」
「これ全部いいの?」
「ここに子供はひとりしかいない」
ウォードは「ひとり占めしていい」と言う。嬉しすぎてクリスティナは言葉もない。
ウォードがゆったりと座りなおして脚を組んだタイミングで、言うべきことをようやく思い出した。
「ありがとう。大事にする」
「……大事にしないで食え」
こんな素敵な花束をもらうことは、一生ないと思う。クリスティナはキャンディを抱きしめた。
きっとウォードとのお別れは近い。
ウォードのお友達か仲間が食べ物を運んでくれていることくらい、聞かなくてもクリスティナにはお見通しだ。
お仲間が来られるということは、通行止めが終わったということ。
別れの気配を隠そうとしないのがウォードのやり方なら、私は気がついていない態度をとることにする。と、クリスティナは決めた。
「立ち入った事を聞くが」
「たちいったこと?」
夕食後の満ち足りた時間にウォードが切り出した。
聞かれるのはいいけれど「たちいったこと」が分からない。
「答えたくなかったら答えなくていい。シンシア・マクギリスを知っているか」
思いもよらない問いかけに、クリスティナは息を詰めた。
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