あなたにあげたい・1
子供にお礼がしたいと言われて、困るのは大人――ウォード――のほうだ。
子供の持つ物は親が与えたものなので親の持ち物、あげると言われてももらうわけにはいかない。
「毛糸でなにか編めればいいけど……ヒモ欲しい?」
編めるのは紐だけと告白するクリスティナに、欲しいと言ってやるべきか。聞いてきたくせに「いらないだろう」と決めつけた顔をしている。
もらっても使いみちがないので、正直いらない。そういうところだけ妙に聡いと、ウォードは笑いを飲み込んだ。
「絵は、あげるほど上手じゃない。お料理はできない。二十日大根は昨日食べた」
どうせすることもない、これはこれでよい暇つぶしだ。などとウォードが考えているとはつゆとも思わず、小さな頭を悩ませる様子がおかしい
「でんぐり返しできるけど、見たい?」
予想外の案にウォードは吹き出し笑いをした。
「見たくないみたい。お茶をいれてあげるのは?」
「親のいないところで火傷を作っては大変だ。やめてくれ」
「大丈夫だと思う。自信ある」
させない。黙って頭を横に振ると、クリスティナは子供のくせに眉間に皺を寄せた。
もう思いつかないらしい。ならば。
「小話でも読んでくれないか」
包み紙の店名を読んでいたから字は分かるらしい。本の一冊や二冊は置いてあると考えた。
町村に住む者でも皆が皆読み書きができるわけではない。
山育ち、しかも山賊の子供の知識がどれほどのものか。ウォードの興味を引いた。
「そんなことでいいの? わかった。ちょっと待っててね」
「他人の家」であるはずなのに、クリスティナは一目散に階段を駆け上がっていった。
「カラスぴぃちゃん、山猫にゃーごちゃん、狼はうるちゃんでクサリヘビずるちゃん」
機嫌よくしているクリスティナには悪いが、もうそれは読み上げているとは言えず創作だと断じたい。
持ってきたのは騎士四家を題材とした絵本だった。
ハートリー家の守護獣は山猫。クリスティナによれば「にゃーごちゃん」と言う名らしい。守護獣が聞いたらどんな反応をするだろう。
ウォードに守護獣は見えない。当主か当主に準ずる者にだけ見える、とされている。
当主である父と守護獣について話したことがないので、実際に見えているかは不明だ。
好きに名をつけるクリスティナのほうが、ウォードよりよほど山猫を身近に感じていそうだと思った。