お世話係ウォード・2
なぜ名も知らない「アンディ」と比べて劣っている、と告げられているのか。
あまりに小さなことで腹を立てるのもどうかと思うが――腹立たしい。
「貸せ」
ウォードは雑にスプーンを置き、クリスティナの器を手に取って、息を吹きかけた。
冷める早さに大差はないと思える。
けれど、クリスティナはテーブルに肘をつき顎を乗せて満足した猫のような顔をしているので「ふぅふぅ」をする意味はそこにあるのだろう。
「ありがとう、もう飲めそう」
止められるまで続けてやり、忠告をひとつ。
「今さらだが、誰のものとも分からない食べ物や知らない奴に与えられた物を軽々しく口に入れるなよ」
言うウォードが「今さら」と思っているのだから、クリスティナは余計にそう思っただろう。
「ここは私の家でこれはうちの食べ物」と顔に書いてある。
ぎこちない空気が流れ、譲ったのはウォード。
「ま、今さらだ」
「うん、まぁ、いまさら」
分かった顔をするクリスティナは「今さら」の意味すら理解していないかもしれなかった。
クリスティナがウォードの腰に腕を回す。体格差がありすぎて背面までしっかりとは回らない。
「短いみたい」
「見るからに短いだろうが」
しょげるほどのことか。「もうすぐ八歳」なら、もう少ししっかりしていてもいい、とウォードは何度目かの感想を抱く。
クリスティナが手にして短さを嘆くのは、毛糸で編んだ赤い紐。編み物を習いはじめたばかりで、練習として取り組んだと言う。
互いの腰に巻きつけておけば、夜中にひとりにされそうになっても目が覚めると信じている。
「たりないぶんを、これから編む」
編み棒を取りに走ろうとするクリスティナの肩を掴んでとどめる。
「なにも薄暗い夜に編まなくても明日でいいだろう」
クリスティナのたどり着いた結論に異を唱えたいウォードが提案する。
「お互いを結びたいだけなら、細い部分でいいのでは? 手首や足首で」
ガンと頭を殴られたような顔をするほどのことでもないと思う。
「俺の考えは間違っているか?」
「……合ってる」
子供のすることを真に受けて追い詰めるような真似はしない。しかし、と手首に巻いた赤い紐を眺める。試しに端を引くとするりと解けた。
この結び方では解くのはたやすく、拘束にはならない。
あれだけ昼に寝たのに、クリスティナの夜は早い。寝台は冷たいから嫌だと言い張り、暖炉の近くでもう眠っている。
山狩りに来たはずが山賊の家で子供の世話をしていることについて不可解に思いながら、元のように手首に紐を結ぼうと試みる。
意外にうまくいかない。手と口も使ってなんとか結ぶことができた。
朝になって解けていたら、どれだけ落胆したか。クリスティナの表情を想像するだけで、ウォードの口元に笑みが浮かぶ。
ウォード・ハートリー最大の関心事は、明日クリスティナが起き出す前に食料が届いているかどうか、だった。