若様ウォードと副官ブレア・2
「それで、若様。雨宿りですか」
山に入る前の打ち合わせで、地図にて集落の位置と山賊の拠点と思われる家屋は確認済み。
今いる狼煙台のある家がそのうちのひとつだと、ブレアも承知しての発言だ。
「山狩りが解除されるまで住人は戻らないでしょうから、寝泊まりをこちらでされては」
雨のなかの野営はお世辞にも快適とは言えない。
「雨宿りもしているが、この家の子供を保護している」
組んだ足先で示す先にいるのはクリスティナだ。集めた毛布を敷いて寝床を作ってやったのに、少し目を離すと体に毛布を巻きつけた状態で暖炉へと転がっていく。
火がつくぞと脅しても、熟睡しているクリスティナには意味がない。
もう一度寝返りをうったら元の位置に戻そうと考えながら見張っていたところだ。
毛布からはみ出た頭は短髪。誰が見ても男の子だ。
「こんな子供が山賊ですか」
「おそらく、頭の子供だ」
「――こんなに小さいのに定めを背負っているかと思えば、憐れに感じますね。親は選べませんから」
床で眠りこける子供に情を寄せるというていで語るのは俺のことか、とウォードは気がついた。
人を束ね上に立つのも家を繁栄させるのにも関心が薄いと口にした覚えはないが、身近に過ごせば察するものらしい。
示し合わせたように揃って床の子供に注目するなか、またころりと暖炉に近寄る。まったくもって目が離せない。
足を組み替えるついでにと立ち上がり、クリスティナを抱えて元の位置に戻す。横目に見たブレアとしっかり目が合った。
「……なんだ」
「いえ、特には。ご入用のものがあれば、お持ちしますが」
芋や豆はあるが、他人の貯蔵庫を漁るのはいい気がしない。
一番近い村なら夜には、街でも明日の朝までに往復できる距離にある。
買い出しと、名ばかりの山狩り、どちらも同じくらい小事だ。
「二日分の食料と、少しうまいものを届けてくれ。子供の好きそうなものを」
迷って付け加えたひと言に、ブレアが微笑する。
「承知しました。子供は甘いものが好きですから、なにか見繕ってまいります」
そう言って、ふと気づいたように息を吸う。
「香ばしい香りがしますか」
思い当たるのはクルミ。「少し煎るともっとおいしい」と、クリスティナにねだられて、暖炉の火で煎ってやった香りが残っているらしい。
「そうか?」
とぼけるとブレアが心得た顔をするのが、きまり悪い。
「できるだけ早くお届けします」
ウォードは黙って頷いた。




