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偽善と認めて

 頭をコクリコクリとさせるクリスティナを見守っていたウォードは、素早くテーブルに手を置いた。


 丸いおでこが、手の甲にぶつかる。間に合ってよかったと思いながら、小さな肩と頭を支えて姿勢を戻し椅子の背に落ち着かせる。



 体の比率を考えれば、子供の頭は大きい。またすぐに突っ伏すことだろう。


 やはり寝台へ運ぶか。しかし数日無人にしていた家の寝台は、クリスティナの言うように冷え切っている。

この部屋のほうが暖かいはずだ。



 小さくて温かな生き物。ウォードはあらためてクリスティナを眺めた。


 髪は見た目通りの柔らかな手触り。どこもかしこも小づくりで可愛らしい。


 その言動は……自分がこの年頃にはもっとしっかりしていたと思うが、うぬぼれかもしれない。




「やはり、寝たな」


 声に出してみる。もちろん深く眠っているクリスティナからの返事はない。



 クリスティナの引き取られた先が山賊であるとは、想定外だった。

しかもこの家――山賊の棲家というより、統制のとれた集団の住まう雰囲気が漂う妙な家だ。

ウォードは左右に視線を投げつつ思案する。



 クリスティナがクリスと男児のように名乗り、男児と見間違える格好をしているのはなぜか。


 「実はクリスティナこそがマクギリス伯の娘シンシア」などと考えはしないが、繋がりがあるのかもしれない。


 山賊一味はそれを知っていて利用するつもりで育てている――まさか。



 今も「城塞を取り戻そう」という動きはある、というより常にある。

マクギリス家が治めている時は「城塞奪還」がハートリー派の悲願となり、ハートリー家が治めている時はその逆。この地に染みついた願いだ。




『いつも腹を空かせている』

『いつもじゃない』


 頬を膨らませたクリスティナとのやり取りを思い出す。

きちんと整えられた家で世話をされていると知ってこれほど安堵するとは、ウォード本人にも意外だった。



 城塞に続き今回もまたクリスティナの安寧を乱したのが自分達だと思えば、苦々しい思いと共に自分を笑わずにはいられない。


 原因を作ったのは俺達なのに善人ぶった振る舞いはなんなのだ、と。偽善という言葉が似つかわしく思える。



 少し目を離した隙に、クリスティナはゆっくりと横に倒れようとしていた。

抱きとめたウォードにもたれて「くう」と鼻をならす。


「まだ食べたりないのだろう」


 からかうウォードに答えるように小さな口がもぐもぐと動いた。


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