山賊の娘とお墓参りの人ウォード・5
お昼を食べてから、クリスティナはウォードが沸かしてくれたお湯で顔と手足を洗った。
数日ぶりのお湯にすっきりほんわかとして、いかにもお家に帰ったという気持ちになる。
「ウォードもどうぞ」
乾いた布を手渡すと「他人の家であまり勝手をするのは」と遠慮された。
「大丈夫、母さんは小さなことを気にしないから」
取り繕うことはもういいんだな、と聞こえたけれど「とりつくろう」が分からないので、聞こえない顔をしておく。
テーブルの上の籠に山盛りの胡桃は半分になった。もっと食べたいのに「食べ過ぎはよくない」と三個で止められてしまった。
ウォードが次々に割って鉢に入れるのを、眺めるクリスティナは物欲しげな顔をしているかもしれないと思う。
食べないのに割る。こういうのは確か「手慰み」と言うのだ。
お酒を飲んでいる時や、ひとりですることがない時間に、なんとなく暇つぶしのようにするもの。
籠がすっかり空になって、退屈して帰ってしまったらどうしよう、夜にひとりは嫌。
もっと硬そうな割るのにとても時間のかかる木の実はなにかなかったか、と本気でクリスティナが考えていると。
「手が疲れた」
ウォードはくるみ割り器を卓上に置き、左手で右手の指をほぐしながら「目が半分になっている」とクリスティナを見て微かに笑う。
目というなら、左目の不自由を感じさせない手つきだった。お顔の傷は、もう気にならない。
こういうのはなんだっけ、そうだ「男の勲章」。オヤジも腕とか肩の傷を自慢していた。「男は傷を誇るんだ」って。
ぼんやりと考えるクリスティナをウォードが見つめ――。
「眠いなら寝台へいけ」
お昼寝を勧めてくる。
「いや」
きっぱりとお断りした。
「嫌?」
「だって冷たいから」
ジェシカ母さんかアンディに足をくっつけて寝ないと、冷たくて目が覚めちゃう。
「では、夜はどこで寝るんだ」
「寝ない」
「寝ない?」
聞こえているなら、聞き返さなくていいのに。
「ずっと起きてる」
「今も半分寝ているのに?」
「そんなことない」
こうしておしゃべりできるのが起きている証拠だ、とクリスティナはまぶたをぐっと上げてみた。
重くてすぐに落ちてしまうけれど。
「意地を張っていないで寝台へゆけ」
「いかないの」
ウォードが無言のまま聞き分けのない子を見る顔つきをする。
「目が覚めた時ひとりだと嫌だから、起きてる」
起きていると言ったら起きているのだ。……とてもおねむ。