山賊の娘とお墓参りの人ウォード・2
ウォードがマントの下へ手を入れた。剣を外して、戸口に立て掛ける。
知らないお作法を珍しく思ってクリスティナが注目するなか、ウォードが雨に濡れたマントを脱いで扉をくぐった。
「剣を見れば先客がいるとわかり、他の者は入ってこない」
言いながら室内を見渡し「結構広い」と階段に目をとめる。
「お二階もあるの。見る?」
野郎どもの部屋は一階で、私とジェシカ母さんのお部屋は二階。オヤジの部屋も二階だ。
「……この家を訪れるのは初めて、だろう?」
念を押されて、クリスティナは「うっ」と言いそうになる口を押さえた。そうだった、この家の子でないフリをしていたのに、バレるところだった。危ない危ない。
「初めて。ほんとうに」
素知らぬ顔で強調すると、先ほどと同じようにため息をつかれた。ウォードさんはお疲れなのだろう。
ジェシカ母さんのいない今、私が頑張ってお茶を出さなくちゃと思うけれど、竈も暖炉も火の気はなく、火のつけ方は知らない。
「なにを悲しむ」
言われた意味がまた分からなくて聞き返す。
「悲しむ?」
「哀れっぽい顔をしている」
それはよく分からないが、今考えているのは暖炉の火のことだ。
「暖炉にも竈にも火がないから、お湯が沸かせないと思ったの」
「……」
「温かいものが出せなくてもしょうがない。あるものでお昼にしよう」
「あるものでお昼」とジェシカ母さんの口癖を真似すると、長い間会っていないような気持ちになる。それに少し大人になった気分も。
「保護者に捨てられたわけじゃないんだろう?」
難しい顔つきでウォードが暖炉を見、籠にあった薪を手に取る。
「絶対に迎えに来てくれる」
クリスティナは力強く返した。それにここは本当は私のおうちなの。言えないけれど。
「山にはいつからいる?」
「五歳から」
「それまでは、どこに?」
火打ち金を使う音がする。
「前のお母さんが子守りをするお家に、一緒に住んでた」
「子守り、か。父親は息災か?」
「そくさい?」
大人の言葉は分からない時がある。
「ケガもなく元気、という意味だ」
「お父さんはいない」
お母さんといる時にお父さんはいなかった。ジェシカ母さんは母さんだけど、オヤジはオヤジだ。
だから「いない」で答えはあっていると思う、たぶん。
ウォードは黙って暖炉の前で手を動かしている。
クリスティナが期待して見に行くと。
「着いた」
小さな火が小枝を舐めていた。