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決断・2

「捨てられた子がどうしたらいいのか知らない。知ってる?」


 無邪気に聞かれても。捨て子や戦災孤児の行く末を考えたことのないウォードだったが、先行きが明るいとは思えなかった。


「生きたいか」

「それは、わからない」


 生きるという言葉を知らないのか、生きたいかどうかが分からないのか。とにかく、迷うことなく返答した子供に対し、ウォードの方こそ迷いが生じる。



 シンシア嬢が見つからなければ、替え玉の娘を作り顔を潰すなり焼くなりして「マクギリス一家全員を滅ぼした」と知らしめるかもしれないことは、想像がつく。

そうした場合、父達にとってこの娘は都合がいい。



「いくつだ」

「ごさい」


 小さな子がするように、手を前に出し指を広げて「五歳」とする。つまんだらすぐに千切れそうな小さく見るからに脆い指。

こんなに小さくてもちゃんと手の形をしていて動くんだな、などと場違いな感想を抱くウォードの無言をどうとったのか。


 再び「クリスティナは、ごさい」と少し声を大きくして教えてくる。


 なにかを期待するでもなく聞かれたから答えただけ、というように。



 くう。腹が鳴った。ウォードではないから、この子だ。年頃の娘なら顔を真赤にしながら知らぬふりをするだろうが、平然としている。それほどに幼いのだ。



「腹が減ったか。食い物はあったのか?」

我ながら質問ばかりしていると思った。


「食べるものは、みんななかった」


 二か月の籠城戦。まさかの事態で食糧の備蓄が不足していたか、長引くことを想定して出し惜しんだか。

こんな子供の腹を満たすくらい大した量でもないと思うのに。



 ハートリー兵団の調理班はまだ城内に入らず屋外に幕を張り、炊事をしている。そこには民間人も多く雇い入れており、婦人もいた。少しの間なら子供ひとりの面倒くらいみてくれるだろう。



「食わせてやる」


 荒い言葉が理解できないのか、子供が目をぱちくりとした。

シンシアの身代わりにするにしても、空腹でなくてもいい。


「来い。美味いかどうかはともかく、腹はふくれる」

「はらはふくれる」


 より難しくなったらしい。けげんな顔が可笑しくて、ウォードは笑った。笑ってから頬を緩めたのが、ずいぶん久しぶりだったことに気がついた。



「他の奴らが来る前に行くぞ」


 見られてはまずい。肩から外したマントも汚れきっているが、子供を隠せそうなものはこれしかない。


 無抵抗のクリスティナを窪みから引き出して、頭からマントを被せて小脇に抱えた。軽い。


ぷらん、と出た足が気になる。


「できるだけ縮こまれ。これも分からないか、体を丸めて小さくしろ」



 クリスティナが素直に手足を引っ込めたことに満足して、ウォードは階段を駆け下りた。


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