聖王様、私の父は誰ですか・4
笑われた理由を聞かないうちにお茶がはいった。子供のクリスティナはあまり熱いのは飲めない。しばらく冷めるのを待つ。
出されたティーカップは、割ってしまったら顔色が真っ青になりそうな高級品だ。
「器は薄ければ薄いほど唇のあたりが良く、味が上品になる」
器で味が変わるなんてある? と思いながらも、聖王様が言うなら特級のお茶はそうなのかもしれないと思い直す。
「狼も飲むかい?」
「お気持ちだけで」
おお、はうるちゃんが大人っぽい。
「狼のいらないぶんはダーが飲んであげるよ」
いや、ダー君。お口を閉じるよう言われたのは今さっき。もう忘れちゃったの?
ダー君以外の全員が気持ちを揃えて、くるりんとした髪の可愛い男の子を見つめる。
不思議そうに見返して、視線を集めたのが嬉しいのか最高に愛らしい笑みをふりまくダー君に、聖王様もものを言う気が失せたらしい。
無言のまま指先でダー君の本をトンとし、続きを読むよう促すのみだった。
改めて口を開く。
「ものには側面がある。様々な面が集まってひとつのものを形成すると言えばいいかな。例をあげるなら、お嬢さんの小鳥」
ぴぃちゃんがなにか? 部屋に入るまではクリスティナの肩にいたぴぃちゃんは、今は膝に寄り添う形で座っている。
「私から見えるのは正面の姿。お嬢さんには側面。下から見る人がいれば脚とふっくらしたお腹しか見えないね」
そんなこと、ちょっと考えたら分かる。なんて言っちゃうほどクリスティナはお子様じゃない。
まどろっこしいお話に耐えられるかどうかを試されているのなら、自信がある。
オヤジは「つまりだな」と全然つまることのない話ばっかりしてた。「ようするに」と言いながら、少しも要約しないでダラダラと話した。
任せて。つまんないお話も「だから結局なんなんだろう」ってお話も聞けるよ、私。
自信ありげに深く頷き「お任せください。ちゃんと聞けます」と意欲を示すと、聖王は笑みを深めた。
「私が話を聞いたのは、伯爵夫人の一番近くで仕えていた女性だ。体を悪くし郷で療養していたから『災難』に巻き込まれずにすんだんだ」
名前までは思い出せないけれど、ぼんやりと頭に浮かぶ女性像がある。
おばあさんに近いくらいのお歳で、声を荒げることのなかった人だ。
「家政婦長さん、お元気ですか」
「年相応にね」
クリスティナの思う人で当たりだった。
聖王様の言う「側面」は、家政婦長から見たマクギリス伯爵家の内実。
「あ、先に聞いてもいいですか。恐れ多くもシンシアお嬢様は私の妹?」
「いいや、従姉妹」
「……いとこってなんだっけ?」
急に「いとこ」の意味が分からなくなったクリスティナが尋ねた先は、はうるちゃん。
「人の続柄の関係を俺に聞くのは違うだろ」
狼は盛大に呆れてみせた。それでも助言をくれる。
「茶でも飲んで落ち着いちゃどうだ、クリスティナ」
それもそうか。カップを手に取り、口に含む。渋っ!
お茶は大人の味だった。




