レイとウォードとクリスティナ・1
眠れそうなのに眠れない。そんな状態が続いて嫌になったクリスティナは、むくりと起き上がった。
部屋には寝台が四つ。劇団員の誰かが寝に来ているかと思ったら、ひとつ空いている。クリスティナの両隣の寝台には、レイとウォード。
ふたりとも眠っているようだ。どちらにしようかと悩みウォードに狙いをつける。
「眠れないのか、クリス」
響きを抑えた声の主はウォードではなくレイだった。起こしてしまったか、横になってはいたが目を閉じていただけで眠っていなかったか。
薄暗がりのなか目を凝らすと、クリスティナを見つめている。
「足が冷たくてうまく眠れないの。こういう日はフレイヤお姉さんが腿の間に挟んでくれるんだけど」
そうすると温かくなって気持ちよく眠れるのだ。
口を薄く開けたレイが微笑する。
「なんて羨ましい。今度代わってくれないか」
「絶対代わらない」
はうるちゃんかと思ったよ、レイ。発言がオヤジ寄りなのはルウェリンの家風のような気がしてきた。
「水でも飲むか」
「お水はいい。ウォードで足を温めようと思って」
「それは。さすがに、なんだ」
レイは、ウォードに悪いと言いたいらしい。私の冷たい足がくっつき一瞬冷やっとするその時に目が覚めてしまうのは、仕方ない。
その後クリスティナを抱っこすれば、フレイヤお姉さんは「子供の体温は高いから気持ちいいわ」と必ず言うので、最初だけ我慢してくれれば、ウォードにも心地よさを実感してもらえることと思う。
最初の「冷やっ」だけ我慢してくれれば。
「ウォードは止めて俺にしてくれ」
「ええ……?」
俺では不満なのかと聞かれて、レイは体が大きいから一緒に寝るとお互い窮屈だと、クリスティナは考えを述べた。
それに対し、筋肉量が多いほうが体温が高い、つまり俺の方が温めるのには適している。
などとクリスティナには理解できない説をレイに熱心に唱えられては、お断りするのも悪い。
ウォードを諦めてレイに身を寄せた。
本人が言うだけあって確かに温かい。ふくらはぎあたりに足を押しつけると、柔らかく包む感じはないものの陶製の湯たんぽに近い足触りで、悪くない。
「どうだ? クリス」
「お姉さんみたいにお肉に挟まれて気持ちいい、じゃないけど、かなりいい」
それはよかった、眠れそうか。と、笑いながら聞かれて、クリスティナは頷いた。
「寝るまでおしゃべりしよう、レイ」
掛毛布のなかに半分潜っているので、クリスティナの声はくぐもり、ウォードの眠りを妨げない。
「昔、ジェシカ母さんが忙しい時レイが寝せてくれたよね」
「覚えてたのか」
オヤジは横になるとすぐに寝てしまい、退屈したクリスティナはひとり起き出して炊事場にいるジェシカ母さんの所へ。
役立たずとオヤジが母さんに叱られていた。
他の野郎は、母さんが寝室への立入りを禁止した。
アンディがくるまで、レイには何度も寝せてもらったのだ。
「クリスは寝たかと思うと、はっと目を覚ますんだよな。そのまま寝ればいいのに『しまった、寝ちゃった』みたいに」
レイが懐かそうにする。四年も五年も前のお話は、クリスティナにとっては昔話。
「寝るのが下手な子供なんてクリスが初めてだ」




