山狩り
山狩りとは、山にいる悪党を追い詰めて捕らえること。
捕まえる側にとっての「悪党」だから、山賊はもちろん歯向かった人も対象になる。
走りに走って「どんぐりの木のおうち」に登り、床に腰を落ち着けてから、アンディに山狩りについて説明する。お互いに息は切れたままだ。
いつか山狩りがあるだろうと聞かされて育った。雪でも雨でもない晴天の日が危ない。捕まえに来る側は山に不慣れだから、悪天候の日は避けると聞いた通り今日は晴れそうな日だ。
アンディの不安は、クリスティナから見てもわかるほど。
「捕まえに来るのは誰?」
「今のご領主の兵隊さん。安心してアンディ、ここにいれば大丈夫」
「ウィストン伯の兵隊?」
「そう」
震え声のアンディをどうにかして元気づけたいと思っていると、どこからか焦げた臭いが漂ってきた。
アンディが首を伸ばしたり左右に振ったりして、枝葉の隙間から様子を窺う。
「煙だ!」
唇を震わせて鋭く指摘する。クリスティナが立ち上がると、青っぽい煙が空に立ち昇るのが見えた。
「あれなら大丈夫。ジェシカ母さんの上げた狼煙だから」
ちょっと色の違うあの煙なら火事ではなく、他の拠点に山狩りを知らせる為の狼煙だ。
焼き討ちにあうほどの悪さはしていないし、こんな落ち葉がパリパリになる季節に火を放てばどうなるかなんて、誰にでもわかる。火気厳禁。
「オヤジさんやベンジーさんが戦うの?」
「まさか」
山賊は兵隊とは違う。逃げてほとぼりが冷めるのを隠れ待ち、こりずに稼業を再開するだけだ。
アンディはクリスティナの説明に納得したようだけれど、それと安心は別。唇の色が悪い。
そうだ、食べたらいいかも。クリスティナは思いついて、持たされた袋を漁った。出てきたのは堅焼きビスケット。
「アンディ、ジェシカ母さんが持たせてくれたから、食べよう」
「お腹は空いてない」
「でも、いつもの朝食の時間よ」
いいから食べよう、と手に押しつける。「食べられる時に食べておいて」なんて言ったら不安にさせてしまうから、黙っておく。
アンディはじっと手元を見つめると、仕方がなさそうに口に入れて「もそもそする」と漏らす。
緊張してお口がカラカラなんだろう。
「はい、お水」
水の力を借りて飲み下したアンディが力なく微笑する。
「クリスは丈夫だね」
「そりゃあ、甘ちゃんじゃなくて根っからの山賊の子だから」
こんなことで動じたりしないのだ、とクリスティナはビスケットを噛った。