不穏
朝の早いうちから起こされた。いつもクリスティナより先に起きるアンディもまだ寝ている時間だ。
「起きな、クリス」
体を揺すられても、眠いから起きたくない。冬のこの時間は外もまだ暗い。
「アンディも、起きな。ほら、急なことなんだよ。後でまた寝ていいから、今は起きな」
ジェシカ母さんの声を聞きながら先に体を起こしたのはクリスティナ。思い当たることがあった。
「山狩り?」
「そう、山狩り」
冷たい濡れ布巾で顔を拭われると、一気に目が覚める。
隣から小さく抗議するようなため息が聞こえた。アンディだ。
アンディは決まった時間きっかりに目を覚ますことは得意だけれど、急に起こされるのは苦手。
でも今は一刻を争う。クリスティナはアンディのお腹の上にまたがった。そしてお腹も脇も手当たり次第にくすぐる。
「んんっ。やめて、やめてクリス!! 」
めちゃくちゃに手を振り回しながらアンディが半身を起こす。クリスティナは振り落とされて、寝台に転がった。
素早く体勢を立て直し、濡れ布巾でアンディの顔をごしごしとする。優しいと起きないかもしれないから、それはもうごしごしと。
「うわっ。なんなの、なんなの」
肘打ちをしかけたアンディをジェシカが押さえて、動きを制する。
「さすがに起きたね。おはよう、説明してる暇はないんだよ。今後のことはクリスに聞きな」
山賊には夜着がない。寝ていたかっこうの上からセーターを着てそしてもう一枚、さらに防寒着を重ねる。
眺めていたアンディも今朝はいつもと違うと理解したのか、同じようにする。
「ほら、これを背負って」
ジェシカが、それぞれの背中に中身の詰まった袋をくくりつけた。
「母さんは?」
「することがある」
一緒には行けないだろうと思った、一応聞いてみただけ。うつむいたクリスティナの頬を両手で挟んで上向かせたジェシカが言う。
「クリス、アンディのこと頼んだよ」
「任せて、母さん」
そうだ、私がしっかりしなくちゃ。目に力を込める。
ジェシカは続けて「クリスを頼んだよ」と、アンディの肩に手を置く。
「はい」
出かけるばかりの姿で凛々しく返したのに、クリスティナの手を握ると「なにが始まるの?」と、こっそりと聞くのがおかしい。
「さあ、行った。クリス、どこにいても必ず迎えにいくから、いらない心配なんてするんじゃないよ」
ここは「さよなら」じゃなくていいと思う。クリスティナはジェシカ母さんに笑顔を向けた。
「行ってくるね」
「はいよ、行っといで」