お母さんと私・2
ふたつ買おうとするウォードをクリスティナは慌てて止めた。
「なにしてるの、ウォード」
「何って、これでいいとクリスティナも言っただろう」
これでいいとは言ったけれど、私がどれだけ食べると思っているのだろう。そんなに大きなパン半分も無理なのに。
クリスティナが訴えれば、ウォードは半信半疑といった目つきをする。
「遠慮しなくていい。いつも腹を空かせているだろう」
なんと言うか、出来上がったイメージがよろしくない。半目になりそうなのはクリスティナだ。
「いつもじゃない。それに、子供のお腹の大きさを分かってない、ウォード。私の背はウォードの半分なのに同じだけ食べるはずない」
「育ち盛りだから食うかと思ったが」
まだ言うか。
「そんなに食べない」
クリスティナは強く言い切った。
「それで、俺はクリスティナの食い残しを片付けるわけか」
なんて聞こえの悪い。
「私が先に少し食べてウォードにあげるの」
「うまい言い方だ」
どこの広場にもありそうな記念碑の石段にふたり並んて腰掛け、食べることにする。やはり食べながら歩くのは難しかった。
ウォードの手には買ったばかりのソーセージの挟まったパン。
クリスティナの意見が通り、ひとつだけだ。
あ、いい事を思いついた。
「残りが嫌なら、一緒に食べればいいんじゃない? 私はこっちから食べるから、ウォードは反対側から」
同時にかぶりつけば、先も残りもない。とてもいい考えだと思うのに、ウォードの口が軽く開く。
「なんだと」
「そんな驚くこと?」
お返事がないところを見ると、この案は却下だ。
アンディだったら、きっとしてくれたのに。少し違うかな「昔のアンディだったら」だ。
感傷的な気分になったクリスティナに、パンが差し出された。
かぶりつきやすい絶妙な位置に浮いている。
「ほら、持っていてやるから」
持たせるとパンだけ口に入れてソーセージが後ろから抜け落ちそうだ、と言われればそんな気もしてくる。
「ありがとう」
「好きなだけ食え」
本当はあんまりお腹が空かないの。これからお母さんとシンシアお嬢様に会うと思うと、胸のあたりが絞られたようにきゅっとする。
でも私が食べないと、いつまでたってもウォードが食べられない。
クリスティナは気を取り直して大口を開けた。
食欲のないのを「パンが固くて顎が疲れる」せいにしたのが間違いだった。
ウォードは眉間に皺を寄せ、柔らかくて食べやすいものを探しに行ってしまった。
ひとりで待つ形でも、舞台や劇団の荷馬車が視界に入る。なにかあったら駆け込めばレイがいるので心配無用。
のんびりと日向ぼっこなどして待つクリスティナに影がさした。




