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お母さんと私・1

 アガラス領に来た王都劇団が上演するのは町の中央広場。お祭り用に舞台が組んであり、合間ではカボチャの品評会や鶏の鳴き声大会も開かれるらしい。


 飾られている立派なカボチャのひとつひとつをクリスティナは真剣に眺めた。


 カボチャの良し悪しを見極める目利きになる良い機会だと思う。


 が、領主賞と金賞のカボチャを見比べるうちに、そもそも領主賞と金賞どちらが上位かが分からないことに気がついてしまった。



「ウォード。私達こんなところで遊んでていいの?」


 クリスティナが聞くのは何度目かのこと。アガラス屋敷は目と鼻の先なのに乗り込まずに町にいる。

 レイなんて、せっかく来たからと劇団員と打ち合わせなどのお仕事をしている。




 こちらの指揮を取っているイヴリンは、現在、地元の有力者との昼食会中。


 着いて早々挨拶を済ませた時を思い出すと、クリスティナは繰り返し笑ってしまう。



「あらあら、あら。レイさん、ようこそ。お隣の彼のお名前は? ウォードさん、お名前から素敵でいらっしゃるわ。佇まいに個性が滲む方ってなかなかお目にかかれないのよ。お顔の傷は塗って埋めてしまえば全く問題ないわ。うん、そんな浅い傷で役者人生を諦めるなんてしなくていいのよ。今はお化粧技術も進歩してますのでね。こんな逸材をよくぞ見つけてくれました、ありがとうレイさん。はい、私の一存で採用決定です」 


 おお。いつ聞いても楽しいイヴリン節。手に汗握るクリスティナの隣で、ウォードは戸惑いを隠さなかった。



「――クリスティナ」


助けを求めているのだろうか。


「聞いてなかったの? フレイヤお姉さんの従姉妹のイヴリンさん。劇場支配人の奥様で、しっかりお仕事もしてるんだよ」

「――それは理解した」


 じゃ、なにが分からないの? クリスティナの代わりにレイが小声で返す。


「話半分に聞き流していい。王都流の誉め言葉だとでも思って」



 王都流ではないし、イヴリンさんはほぼ本気で言っていると思う。ウォードが少しでも乗り気の態度を見せたら、今日から舞台の端っこに立つことなる。

既成事実を作る、というやつだ。



 教えてあげようかとクリスティナが迷ううちに、イヴリンは「話の続きはまた後で。お宿はご心配なくね。一部屋くらい空けますわよ」と軽やかに言い昼食会へと出掛けて行った。




 遊んでいていいのか、とクリスティナが問うたびにウォードは頷く。そして辺りをはばかり声を低くした。


「アガラス屋敷に行くのは夜だ。宿泊を断るかわりに宿を手配すると言えないように」


 そういうことでしたか。何を見ても楽しいから反対はしないけれど、大人って悪い。



「なにか食いながら歩くか」

「お行儀が悪い、ウォード。目立っちゃうよ」

「いや、目立ちたいんだ」


 ふうん。ウォードの意外な一面を知った。

その割にはお顔が嫌そうなのが不思議。


「あれは、どうだ」

「ウォードが食べたいなら、いいよ」


 視線の先にあったのは、野郎共も好きだった食べ物。はみ出るほど大きなソーセージの挟まったパンだった。



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