突撃ずるちゃんち・2
「ところで『心ここにあらず』のような状態だったのには、なにか原因があるのか」
ウォードが木製の荷物置きに腰を下ろす。部屋にはもうひとつ椅子があるが、すぐ隣にはうるちゃんが陣取っている。
その椅子に座らないのは、はうるちゃんの姿がウォードには見えなくてもなんとなく嫌な感じがするのだろう、とクリスティナは察した。
「はうるちゃん、おうちに帰れば?」の意味を込めて目配せすると、金眼を動かしウインクのように返してくる。まだ帰る気はないようだ。
ぴぃちゃん、はうるちゃんと共に覗きに行ったずるちゃんちは、城砦やルウェリン城と違い、木とレンガで作られたお屋敷だった。
壁を抜けるのは初体験。鍵を気にしなくていいのも、すごい。癖になりそう。
クリスティナが一生懸命に話すと、ウォードの表情が変化する。
「叱られるようなことじゃないでしょ。誰にも見えないから危なくない」
小難しい顔をされる要素はどこにもないと思うクリスティナの言い分は、ウォードの考えとは違った。
「そのまま、元の体に戻れなくなる心配はしなかったのか」
「しなかったけど?」
ウォードのついたわざとらしいため息に、即刻反応したのははうるちゃん。
「なに言ってんだ? こいつ」
そんなバカげたことがあるわけないだろが、と悪態をつき。
「おいおい、こいつが次期当主で大丈夫かよ、山猫のは」
にゃーごちゃんに大変失礼なことを言う。ちょっと、にゃーごちゃんが来てたらどうするの。
クリスティナが慌てても、はうるちゃんは爛々と金眼を光らせてヤル気をみなぎらせている。
「……守護様が、この部屋にいらっしゃるのか」
クリスティナの顔の向きとちょっとした手振りで感じ取ったウォードが、正しくはうるちゃんの位置に目を向ける。
「おう、いらっしゃるぜ」
「自分に『いらっしゃる』はおかしいんだよ、はうるちゃん」
「はん!」
ウォードに聞こえるのは、クリスティナの声だけだ。
「いらっしゃるのはルウェリンの守護様だけか?」
「ぴぃちゃんは、棚の上でぐてっとしてる」
疲れていそうなのは、初めて私と目を共有したせいではなく、はうるちゃんと一緒にお出かけしたせい。
とは、さすがのクリスティナもここでは言いにくい。
「アガラス屋敷でのことはレイ・マードック様がお帰りになってから聞こう。でないと、クリスティナは同じ話を繰り返しすることになるから」
あ、私のためみたいに言ってるけど、「クリスティナの同じ話を俺は続けて二度も聞くことになる」が本音でしょ。はうるちゃんがいるから優しい言い方にしたんだ、絶対。
お利口さんの私にはわかるんだからね。
クリスティナが口を開きかけた時、足音がした。
「あ、レイだ」
「よく、わかるな」
「足音で」
靴底の硬さや体重で足音はそれぞれに違う。今日、メイジーお母さんを見つけたのも、足音がきっかけだった。




