クサリヘビのずるちゃんちへ行こう
アガラス領とルウェリン領は近い。寄り道してルウェリン城へ行くなら、その分他の人より先にこの城砦を発てばいい。
大道具を運ぶ劇団より、少数精鋭のクリスティナ達のほうが速いのも当然のこと。
数日アガラス領に滞在したところで、舞台には支障がないと確認し合った。
「フレイヤお姉さんも一緒は、だめなの?」
「レイさんが離れて私までは、さすがに。ルウェリン城で会いましょう」
フレイヤは「レイさんとハートリー様が一緒だからなんの心配もしない」と言いながら、クリスティナをぎゅっとする。
「別行動をする劇団員の警護という名の監視」をするために、ウォードはレイとクリスティナに同行する。
強引に理由を作らなきゃいけないから、大人は大変だ。
「アガラスの当主が帰る前に、俺達の用を済ませたい。留守番の息子では突然とはいえ遠方からの訪問客である俺達を追い返すという判断はできない」
レイの立てた作戦は。
レイ・マードック・ルウェリンが王都でシンシア・マクギリスらしき少女を見つけ出した。マクギリス伯爵家と親交のあったアガラス家なら、この少女がシンシア本人かまたは別人かの見分けがつくのではないかと考え、ご当主に面会を求めた。
こうだ。
でも、レイとアガラスのご子息は今まで会ったことがない。さすがにルウェリンと名乗っても見ず知らずの人を泊めてくれるはずがない。
はい、ここでウォードです。アガラスのご子息ローガン様とは「会えば話す仲」。そのウォードが身元を保証すれば泊めてくれるでしょ。
レイとウォード? それは旧知の仲だと言い張るしかない。
「なんだか、ふんわり設定で抜け抜けの作戦みたい」
指摘したクリスティナをレイが諭す。
「急造チームはきっちり詰めるとかえって粗が目立つ。これくらいでいいんだ」
頭の良いレイが言うなら、そうなのだろう。レイとウォードと旅ができることに、わくわくする。
馬車では通れない山道を馬で行き、旅程の短縮をはかることになった。
出発の朝、フレイヤがクリスティナを優しく揺り起こした。
「まさかの用心に、聖王様にもティナちゃんがアガラス邸を訪問すると知らせておくわ。困ったことができたら、ダー君の服に書いて」
服に書く? 聞き違いかな。一気に目が覚める。
「書いたものをダー君に渡す?」
「いいえ。失くすといけないから、服に直接書いて」
おお、それは大胆。そしてダー君に信用がない。困ったらそうするとお約束して、クリスティナは城砦を後にした。




