お疲れウォードとクリスティナ・3
何度も聞かなくていいのに。
「気が進まなかったのだろう」
お見通しだった。訪ねたことで迷惑になる可能性を考えて気持ちは後ろ向きだったけれど、そこはウォードとレイが何とかするだろう。大人なんだもん。
「この後ルウェリン城の舞台に立つ予定でしょう、私。間に合うかが心配で。舞台に穴は開けられないじゃない?」
言葉を失うウォード、失ったのは言葉ではなく返事をする気かもしれない。
まさか、私が本気で言ってると思った? だとしたらお芝居成功。
ウォードには小さな頃から何度も迷惑をかけた。ずっと優しかった。これからも仲良くしたい。
レイは山にいる頃に遊んでもらったし、アンディの面倒もみてくれた。親切で頭がいいと、ジェシカ母さんもオヤジよりよっぽど信頼をおいている。これからも長くお世話になる。
そのふたりに協力できる機会が巡ってきた。自分の気持ちなんてぽいっと捨てて、行くに決まっている。
そしてクリスティナは知っている。子供がそういう気を回すのを、大人はよしとしないのだ。
「――そこは責任者のスケリット嬢に調整を頼むしかないか」
まともに取り合ってくれてありがとう、ウォード。
「うまくいけば、両方出られるかも」
「そんなに好きか」
演じることが好きか、と聞かれる。拍手をもらうのは楽しい。今は子供だから何をしてもお客さんは喜んでくれる。大人になっても続けるかと聞かれたら、それは分からない。
「私、お金を持ってないから。稼がないと」
クリスティナは大真面目なのに、ウォードが唇に笑みを浮かべる。
「俺が聞いた話では、ここでもずいぶんな荒稼ぎをしていたようだが?」
私の欲が深いみたいな言い方止めて。お宿をするにはすごくお金がいるんだもん。
横を向いたクリスティナの額を、二本の指でウォードがつんとする。
「冗談だ。そう怒るな」
「怒らせたの、ウォードよ」
本当は怒ってない。そう言おうかと思ったところで。
「強さなんか求めなくていい。俺がクリスティナを守る。マードック様がいるんだ、『お荷物』を抱えても遅れをとることはないだろう。アガラスは元々あまり鍛えていない」
劇作家が書いたら、前半だけにしたはず。私のことお荷物と言っちゃってる。
これが綺麗なお姉さん相手だと違うんだ、きっと。
クリスティナがそんなことを思っているとは知らず、ウォードは焼き栗を剥きクリスティナの口元に差し出す。
小さな子扱いしないで。
「いらないのか」
栗が離れていく。
「いる!」
指ごと食べる勢いで身を乗り出したクリスティナの耳に、ウォードの笑い声が響いた。




