お疲れウォードとクリスティナ・2
クリスティナは無言のまま割ったクッキーを睨みつけている。
「クリスティナ?」
榛色の瞳に映る自分はずいぶん思い詰めた表情だ、とウォードは自覚した。
しかし、それ以上にクリスティナの口元は決意を秘めていて。
「半分ずつにしようと思ったけど、両方あげる」
何を言い出すのか。呆気に取られるウォードの空のグラスにクッキーを立てる。
「それ食べて待ってて。おかわり持ってくる」
身軽に立ち上がり、室内へ戻ろうとする。
「おい」
「喉が乾いてたんでしょう、飲むのが早いもん。お腹もきっと空いてるね。お酒と食べ物を持ってくるから、食べながら待ってて」
クッキーも持ってくるから遠慮しないでそれ食べちゃって。
食事処のおかみさんのように大きな笑みを浮かべて、いそいそと行かれては、止めようにも止められない。
「すぐだから」
「急がなくていい」
きっと聞いていないだろう。可笑しく思いながら、再び壁にもたれる。
目の前にあるのは、同じ大きさに割れたクッキー。計ったように同じなところに、クリスティナの意外な細かさがみえる。偶然か、偶然だな。
せっかくくれたのだから。ウォードは手を伸ばし、口に放り込んだ。
クリスティナは最速で飲食物を運んだ。
腰を据えてお話を聞くと、メイジー母さんに会いたいのはウォードとレイらしい。
クリスティナも会いたいだろう、と決めてかかられたらどうしようと困るところだった。
ジェシカ母さんがいなければ、メイジー母さんとの再会を願ったと思う。
でも、あの日なにもかもが変わってメイジー母さんが昔のことになった。
シンシアお嬢様と無事なら、暮らしの邪魔をしに行かなくてもいいんじゃないかと思う。
「ウォード、私強くなりたい」
「――アガラス家を前触れなく訪れ、ふたりとの接触を図ろうという話が、強さを求めることに繋がるのか?」
俺の説明が悪かったか? ウォードが尋ねるから「そうじゃない」と伝える。
「だってアガラス家で物騒なことになったら、私、レイとウォードのお荷物になるよ。それもまあまあな大きさの」
真似ごとじゃなく剣が使えたら、お荷物なりに多少はましだと思うクリスティナに、ウォードは不機嫌そうに口角を下げた。
あれ?
「冗談じゃない。狼とカラスを味方につけたうえに、剣の腕まで欲しがるか」
欲張りだと断じられた。そこは「お荷物じゃないよ」と言ってくれたらいいんじゃない? なんて言わせてもらえる雰囲気はない。
「おそらく当家の守護様も、俺とクリスティナではクリスティナの味方なんだろう」
「にゃーごちゃんは、そんなことないと思う」
私は美猫にゃーごちゃんのことが好きだけど、にゃーごちゃんはどうかな。
ぴぃちゃんに聞いても「好きです、好き好き」しか言わない気がする。
「クリスティナの気が進まないなら無理強いはしない。とマードック様と――」
「行く」
話を遮ったので、ウォードが眉をひそめる。
「行く。母さんとシンシアお嬢様に会いに行く」
「そんなに簡単に決めていいのか」
「いい」




