お疲れウォードとクリスティナ・1
クリスティナが「ウォードに持っていくお酒はどれがいいか」と聞くので、フレイヤは強くないお酒を選んで渡した。
警備責任者は現在も仕事かもしれないと、気がついたからだ。あれくらいなら酒というほどでもない。
零さないようにと両手で持ちそろそろと歩くクリスティナの姿はたまらなく可愛く、熱心に見つめてしまう。
「クリスも楽しんでますね」
いつから見ていたのか、レイがグラスを片手に近寄った。
「ハートリー様に持って行ってあげるんですって」
とっておきの内緒ごとのように教えたフレイヤに、レイが表情を和らげる。
「それなら今夜のうちに話すかな」
――何をだろう。
クリスティナを待つ間、ウォードは空を見上げていた。今夜は星がよく見える。
はうるちゃん、か。ルウェリンの守護狼は予想以上に威圧的だった。いや、予想したことなどこれまで一度もなかったから、この言い方は間違っているか。
ハートリーの守護である山猫を自分の目で見た驚きと感動は、狼の凄みを前にして薄れた。
クリスティナは可愛いと信じているようだが、肩に乗せた「ぴぃちゃん」は、ウォードには白とピンクで愛らしさを偽装する賢いカラスに見えてならない。
いきなり急所を狙う視線をこちらへ向けていたように感じた。なりは小さくとも、山猫より弱いとは限らない。
そしてよく分からないのは「ダー君」だ。今日見た限りでは見かけと違い利己的かつ狡知な印象を受けた。
自分のことを自分で「可愛い」と言い、それをそのまま肯定するクリスティナに驚く。
あれのどこに可愛さがあると言うのだろう。
クサリヘビを連れて戻らなかったことに、どれだけ安堵したか。
聖王家が存続しているなると、傍流であるウィストン家が我が物顔でこの地を治める正当性に疑問符がつく。仕えるハートリーは――。
「ウォード、お待たせ。思ったより時間がかかっちゃった」
明るく澄んだ声が名を呼ぶ。
「はい。お姉さんに選んでもらったからおいしいと思う」
「尊いな」
ぽろりと零れた言葉にクリスティナが不思議そうにしながらも微笑む。
「そんなに待ってたの? 飲んじゃったらまた持ってきてあげる。疲れてる時は動きたくないもんね、わかる」
「あげる」が多いが、悪い気はしない。それどころか生意気にも聞こえる言い方が、らしさだと好ましくさえ思う。
クリスティナは、ウォードに向かい合って座り、持ってきた大きなクッキーを半分に割る。
「母親に会いに行かないか、クリスティナ」
飲み干したグラスを床に置き、ウォードは切り出した。




