パーティーの片隅で・2
「私、逃げてない」
「は?」
そんなに短い言葉で「何言ってる、俺は信じない」を表現できるすごさね。
これもいつか舞台でいかしたい。ウォードは本当にどんな態度もかっこいいから真似したくなっちゃう。
クリスティナが思わず「うふん」と笑うと、ウォードが若干引き気味になった。
「隠れようと思ったの。『また明日ね』ってご挨拶をばちっときめたのに、まだ今日だし」
ウォードの態度は、明らかに気抜けしたとクリスティナに分かるほど。
「ちょっと考えたら、私カッコ悪いところばっかり見せてるなと思って」
「格好悪い?」
意外なことを耳にしたかのように、聞き返される。
「うん。『嫌な匂いのするもの』を踏んで泣きべそをかいたでしょ。田舎は遅れているから王都の流行を受け入れられないのは当たり前なのに、分かってあげなかったし。この服のことよ」
「分かって『あげなかった』」
「うん」
なぜ、そこを繰り返すのか不思議に思ったけれど、疑問はそのままに先に進む。
「はうるちゃんを縫いぐるみみたいに抱えてたのも、子供っぽかったよね。レイとウォードが呆れてるのが分かったもん。信じてくれないかもだけど、いつもはしない。はうるちゃんとは、そこまで仲良しじゃないから」
思い出すのも恥ずかしい。
顔が熱くて手でハタハタと扇ぐと、ウォードはふうっと息を吐いた。前髪を吐息で浮かす仕草は、初めて見る。
おお、これもいい。すぐにも真似したい。
「時間を置きたかったの」
嘘はない、正直に告げた。
「クリスティナの『時間を置く』は一晩か」
「長すぎ?」
「――いや。ただの確認だ」
焦ってバカみたいだ、そう呟くのが聞こえた。語調が柔らかく心地よく響く。
「ウォードも疲れたの? フレイヤお姉さんも『疲れて頭が痛かった』って。なにか飲むなら持ってくるよ」
クリスティナが気を利かせると、ウォードはバルコニーの壁に背中を預けた。
「頼んでいいか?」
「もちろん! 任せて。おいしいのもらってくる」
ついでにお姉さんのお顔を見てこよう。クリスティナは素早く立ち上がると室内に戻った。
「フレイヤお姉さん、大丈夫?」
フレイヤは先ほどと同じ椅子で別のお酒の入ったグラスを手にしていた。少し元気が戻ったようで、ほっとする。
「飲んだら元気になったわ。ティナちゃんはどこにいたの?」
「ウォードとおしゃべりしてた」
「あら、いいわね」
フレイヤお姉さんが好き、にっこりしたお顔は特別に好き。
「もう少しウォードとおしゃべりしてきてもいい?」
「もちろん。お部屋に戻るときは誘ってね」
まるで大人のように扱われて、クリスティナは満足して頷いた。




