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パーティーの片隅で・1

 打ち上げパーティーって楽しい。

正直クリスティナにはなにがそんなに面白いのか分からないことで大笑いして肩を叩き合っている大人。それを見るのは楽しい。



 お酒を飲みながら高音で叩きつけるように歌ったら喉から血が出そう、と心配になりつつも「あれ、舞台より上手みたい」と思ったり。



 思いきり騒ぐと宣言していたフレイヤお姉さんは、言葉に反して部屋の一角に置かれた安楽椅子を占拠して目を閉じている。

 時々、サイドテーブルに置いたお酒を舐めているので寝ているわけではない。



「フレイヤお姉さん、眠いなら私も一緒にお部屋にいく」


 私のために眠いのを我慢してつきあってくれているのかもと案じたクリスティナに、フレイヤは「行かない」と言う。今夜はざわめきのなかにいたい気分らしい。


「私はここにいるから、ティナちゃんはみんなと楽しんでいらっしゃい」

「時々戻って来るから、ここにいてね」


 クリスティナは念を押してから、手品を披露している小道具係さんのところへと駆け寄った。






 その人が来ると部屋の空気が変わる気がする。理由は説明できない。


 クリスティナにとってはウォードがそう。開け放したままの扉から部屋に入ってきた瞬間に気がついた。

とっさに「見つからないようにしなくちゃ」と思う。


 部屋の入り口は三か所。でも同じ廊下に面しているので、他の扉から出ても見つかりそうな気がする。



 幸いにもこのパーティー会場は二階。下には舞台装置の船がまだそのままだ。


 窓から飛び降りて船に隠れたらいいかも。

何度でも練習したから暗くて見えないくらいどうってことない。


 クリスティナはバルコニーから飛び降りようと決めた。



 劇でバルコニーを使用した時に置いていた踏み台は片付けられてしまった。

 バランスを崩して頭から落ちないように手すりを乗り越えるのに手間取った分、時間がかかる。


 なんとか手すりの上に体を引き上げ、足をかけることに成功。後は向きに気をつけて飛ぶだけだ。



「えいっ」

「『えい』じゃないだろう」


 飛び降りようとした時、クリスティナの体に巻き付く腕があり、勢いよく引き戻された。その反動で、腕の主と一緒にバルコニーに転がるように座ってしまう。



「なにをやってるんだ、危ない。果汁と間違えて酒でも飲んだのか」


 わあ、ウォードったら本気で怒ってる。クリスティナは目をぎゅっとつぶった。


「こんな暗がりで飛び降りようなどと、どうかしている」



 そんなに怒らなくても。にゃーごちゃんを呼んだら助けてくれるかな。ぴぃちゃんは来てくれたとしても「ごめんなさい。ぴぃには無理です」の踊りを見せてくれるだけだと思う。


 クリスティナが身を縮めて黙っていると、呼吸を整える気配がした。



「さっきは悪かったと思っている。心から」


ウォードが思いがけないことを言い出した。


「詰問調になってしまってすまなかった」



 それならもう謝ってもらったし、私気にしてないのに。驚き目を見開くと、かしこまりどこか緊張感のある表情のウォードがいた。


「私最初から少しも気にしてないのに謝らなくていいよ、ウォード」

「気にしていない?」


そんなはずはない、といわんばかりに繰り返す。


「俺を見るなり逃げたのに、気にしていないと言われても」


 逃げた、誰が。私?

クリスティナはさらに目を大きくした。



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