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元聖王妃・3

 真実を知らせるのは相手が大人でも難しいような気がする。

 まずは信じてもらえるかどうか。信じてもらえたとしても、当人にとって不都合な真実ならば告げられて気分を害するだろうし、それが根幹を揺るがすような内容であれば、知ってしまったこっちを嫌うかもしれない。


 子供相手となれば、また別の問題が。クリスティナの背中に手を添えたまま、フレイヤは考え込んだ。



 元夫聖王様が言うには、ティナちゃんの実の父親はマクギリス伯爵です。あなたは正統なマクギリス伯爵家の跡継ぎ。

 シンシア様は実の妹かもしれないし、ふたりが入れ替わっている可能性もあります。



伝えるのは、フレイヤには荷が重く気も重い。



「フレイヤお姉さん。そんなに困るなら、聖王様が今どこにいるかは言わなくてもいいよ。お姉さんも知らないんでしょ」



 質問をすっかり忘れて物思いに耽っていたフレイヤなのに、沈黙を別の理由にとったクリスティナが物わかりのよい態度をみせる。



 そして聞いてばかりでは悪いと思ったのか、小声で打ち明ける。


「ずるちゃんちに、シンシアお嬢様とメイジーお母さんが匿われているのが、ほぼ確定なんだって」

「!!」


 どうしてティナちゃんがそれを。フレイヤのこの上なく驚いた顔に満足したらしいクリスティナが続ける。


「聖王様が裏をとったんだよね、はうるちゃん」


 同意を求められた狼が浅く頷く様子は、まるで中に人が入っているようだ。


「おう。んで、まずはクリスティナの母親に話を聞くべきだって、男ふたりが方法を考えてるとこだ」



 フレイヤの知らないうちに、思わぬ方向に話が転がっていた


 今なら、アガラス家の居住している館近くの広場で王都劇団が上演の準備中。うまくやれば表敬訪問のかたちをとり館に入ることもできるのではないか。


 でも私が考えつくことなんて、とっくにレイさんが気がついているだろうから、急いで言いに行くほどでもない。良い思いつきからそこまではひと続き。



「ティナちゃん。なんだか色々考えたら疲れちゃったわ。今は治ったけれど、さっきは頭も痛かったのよ」


 子供に甘える大人。クリスティナが心配そうにする。


「大丈夫? お姉さんずっと頑張ってるもんね」

「そうなの。実力以上のことを任されて『もう無理』ってなってるの。だから美味しいものと楽しい時間がどうしても必要よ」



熱く語る愚痴を真剣に聞いてくれるから嬉しい。


「難しいお話は、レイさん達にお任せして、私達は打ち上げパーティーで騒ぎましょう」


 いいのかな、と少し悩むクリスティナの背中を狼はうるちゃんも押す。


「それがいい、それがいい。盛り上がってきたら腹出しても許す、ちびっとならな」



 腹? 出す?

なんのことかと聞きかけたフレイヤの前で、クリスティナが憤然と叫ぶ。


「それは私が決めることなの!」


 愉快そうにした狼は「んじゃ、俺も一旦戻るか」と呟き、姿を消した。


「もうっ」

「ふふ。仲良しね」

「仲良しじゃない」


 ぷりぷりするクリスティナを夕闇が包む。

それより一段深い黒さの城砦がフレイヤには重苦しく感じられて、ことさらに明るい声を出した。


「食べて騒ぐわよ!」



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