最強王のお出まし・2
「そんなつもりは――」
「積もるも積もらないも、ねえんだよ」
レイがしたいのは言い訳じゃなくて釈明だと思う。そして「そんなつもり」の「つもり」は雪や借金みたいに積もったりしないのは、はうるちゃんも分かっていて。その上での真意は「受け付けない」だ。
そういうところは、大人。
「お前らよく覚えとけ、女子供は理屈じゃねえ。その時の感情を一生覚えてて、後になって恨みをぶつけてくる生き物だ。遺恨を残さないよう、始めから考えてもの言え」
ん? さり気なく私の悪口言ってない? そしてレイが真面目に頷くのはおかしくない?
はうるちゃん、どんな顔して得意げに教えてるの。クリスティナが顔を見るために離れようとすると。
「クリスティナは俺の首にかじりついとけ」
偉そうに狼が指示する。
「それ、私になにかいいことある?」
「俺の気分がいい」
――そうですか、そうですか。
口を挟まず聞いていろ、という意味と理解して、しばらくはお任せしよう。
「天の計らいか、ダーがいない。これから話すのはクリスティナに何度か言いかけて止めた話だ」
いつの間にかレイとウォードは正面に並び、はうるちゃんを直視していた。
「『山猫の』が暗い通路で聞いてきた、アガラスがシンシア嬢を保護しているという話。シンシア嬢らしきアマリアと名乗る娘がメイと名乗る母親世代の女とアガラスを頼ったのは、城砦が落ちて半年後だ」
「それらしき少女を園遊会で見かけました」
レイ。
「アガラス家に滞在した折、メイという名の女中に世話になりました」
ウォード。
ふたりとも、もう会ってるんじゃん。
「クリスティナにぴぃがついてる理由は、メイに聞くことから始めちゃどうだ。死人に口なし、生き残りの女が真実を話すとは限らねえが」
「守護様のおっしゃるのは、語られるのが真実ではないとしても事態を動かすのはそこから、という解釈で誤りはございませんか」
おお、レイが丁寧だ。
「ヒトの間のことは、ヒトで進めるしかねえからな」
介入し過ぎない、はうるちゃんの線引きだ。
「ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」
これはウォードの声。
「『アガラス家にいるのはシンシア嬢と守り役のメイジーである』そう守護様は確信しているとお見受けいたしました。先にアガラス家の守護様からお聞き及びでしたか」
根拠を尋ねている。レイは自分ちの守護様だから無条件に信じるだろうけれど、ウォードは違うもんね。
クリスティナは納得し、またひとつ疑問を持つ。でもにゃーごちゃんは無口だから、はうるちゃんみたいにベラベラ話さない。そしてぴぃちゃんとは違い踊らない。ハートリー家ではお互いの考えをどうやって伝えるのか、謎。誰に聞けば分かるんだろう。
「あ? 根拠か。聖王が裏とってたから。人脈っつうの? しっかり築いてんだよ。そういや、ぴぃがクリスティナにべったりな『理由』は、元妃にもダー経由で教えてたぞ。ダーが伝え忘れてなきゃな」
「せいおう」「もとひ」。はうるちゃんとダー君が時々口にする言葉だ。
クリスティナの頭にひらめくものがある。「せいおう」は「聖王」、「もとひ」は「元妃」だ。
ダー君は聖王家の守護様で、フレイヤお姉さんを「もとひ」と呼ぶ。敬称かなにかだと軽く聞き流していた「もとひ」は。
「フレイヤお姉さん、お妃様だったことがあるの?」
大声を出したつもりはないのに、クリスティナの声は部屋中に響いたように思えた。




