最強王のお出まし・1
ウォードの説明は、とても上手だった。
聞いた話を他の人に伝えるのは難しい。不足するところを補いながらも憶測は最小限にとどめるなんて、クリスティナにはできない。
ひと通り聞き終えたレイが難しい顔つきになったのを、はうるちゃんがじっと見ている。
先ほどからずっとそんな感じで、口数の多いはうるちゃんにしては珍しいことと思う。
「裏切り者、城砦から逃げのびた令嬢、今になっての真実。そのまま劇作家に渡したいような話だ」
聞きようによっては嫌味っぽくなるかもしれないが、レイが言うとひとり言のように静かだ。
ウォードはレイから視線を外し、にゃーごちゃんを見つめる。
ダー君にも動じないにゃーごちゃんにクリスティナは感心していたけれど、背中から「お荷物」を降ろしてホッとしているように見える。
「うちの守護様――か」
これは、ウォードのひとり言。
そしてクリスティナに目を移す。
「肩に乗っていた白い鳥はカラスだろうか」
「ぴぃちゃんは、今もここにいる」
ぴぃちゃんの翼の先は桃色で、そんじょそこらのカラスとは段違いにお洒落。
前からウォードにも見せたいと思っていた。紹介できたから良かったけれど、ダー君が不在の今はクリスティナにしか見えないようで残念だ。
「なぜ、マクギリスの守護様がクリスティナといる?」
ウォードの問いに、レイが大きく息を吸い吐く。
大丈夫、難しくないから自分で答えられる。クリスティナは当然でしょ、という顔をした。
「私達、仲良しだから」
「―――」
「………」
やだ、なんだろう。お部屋の雰囲気が微妙になったような気がする。なにがいけなかったのか、クリスティナにはさっぱり分からない。沈黙が重い。
叱られている気がして、心細くなる。
「お前ら、女の子を萎縮させてんじゃねえぞ」
のそりと動いたはうるちゃんがクリスティナより半歩前に出て「下がってろ」と尻尾で示す。
でも、いいのかな。はうるちゃんにかばってもらって。迷うクリスティナの頬にぴぃちゃんが頭を擦り付ける。
え、「たまには、はうるちゃん良いことします」って? 前にも思ったけどぴぃちゃん、はうるちゃんに点が辛いよね。
「大の男が揃って情けねえな。気分をそのまんま顔に出すな、クリスティナが怯えるだろうが」
はうるちゃんのお腹に響く重低音がクリスティナに安心をくれる。思わず横から腕を巻きつけて、はうるちゃんの首に顔をうずめた。
硬い毛は好きじゃないけど、今はそれすら心強い。
「クリスティナ、泣きそうならアメを食え」
ここまでは良かったのに、いきなりそれ? 「食え」というキャンディはウォードがくれたものなのに、さも自分がくれたみたいに。
口に物を突っ込んでおけば子供は機嫌がいいと思うのも、いかにもオヤジな発想。
「食わないで待ってる。後で一緒に食べよう」
「おう、そうすっか。さっさとこいつらの話まとめるから、待っとけ」
本当に口の悪い狼だこと。ぎらりと金眼を光らせるのも、やり過ぎだと思います。
だってウォードとレイが喉をごくりとさせたよ。




