クリスティナの獣園・2
そのままの横目で「おや?」という顔をする。
「クリスティナ、見えちゃいけないもんが見えてんぞ」
何を言っているのか分からないクリスティナが、辺りを見回すと。
「腹、腹」
顎でささないで欲しい。そして「腹」じゃなくて「お腹」と言って。私女の子なんだから。
「こういう服なの!」
クリスティナがぷんとすると、にんまり具合が深まったところを見ると、はうるちゃんはからかったんだろう。そういうところが嫌なんです。
クリスティナの目尻がつりあがるのまで愉しそうにするから、始末が悪い。
「なにを騒いでいる、ひとりと聞いたが?」
叩く音が聞こえないのか。と、扉を開けたのはウォードだった。
「ウォード!! うん、ひとり。人はね」
「何を言っているんだ」
クリスティナの発言を怪しむ態度をあからさまにして、部屋に踏み入ったウォードが首を突き出すようにして目を見開いた。
わ、珍しいお顔。これも記憶に残したい、ではなく。
ウォードの視線を辿ると、山猫にゃーごちゃんの背中でまだしっぽを巻きつけてご満悦のダー君から、クリスティナの隣にいる狼はうるちゃん、そして肩に乗るぴぃちゃんへと移った。
「――獣園」
「他に言い方あんだろ、どこんちのモンだ」
「はうるちゃんこそ、他に言い方ある」
真っ先に反応したオヤジ狼に、注意するのはクリスティナ。
ウォードにもみんなが見えるんだ、と思ってから「ダー君がいるもんね」と口にした。
「――ダー君とは?」
ウォードが眉を寄せる。不審感たっぷりに見られてもお構いなしなのがダー君だ。
「こんにちは、ダーだよ。びっくりするほどかわいくて、ごめんだよ」
いや、たぶんそうじゃない。
ダー君以外の全員がそう思ったはず。
でも自己肯定感が最高に高いダー君に「びっくりしてるのは可愛さじゃなくて、この状況と、幼児が背中にコウモリの翼をつけていること」だと理解させられる自信は、誰ひとりない。
はうるちゃんが扉を閉めに動くと、ウォードは道を譲るようにした。
時々はうるちゃんには無駄に威厳があるのだ。
「俺に分かるように説明してくれないか」
ウォードが私にお願いなんて珍しい。クリスティナ、張り切ります。でも、ウォードは知っていると思う。
「今、扉を閉めた狼がはうるちゃん。私の肩にいるのがぴぃちゃん。美猫がにゃーごちゃんで、いたずらしてるのがダー君だよ」
これでは少し足りないかも。
「ダー君は『王家も王家せいおうけ』のコなの」
言っている自分も分からないままの知ったかぶりでも、はうるちゃんが「うんうん」としているから合っている。
クリスティナは自信たっぷりに胸を張った。




