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本番前夜・1

いくらでも話すことはあるような気がする。


 けれど、ウォードが「今聞いた話と元から知っていた話を落ち着いて整理したい」と言うので、今日は解散。


戻る途中、話しながら歩く。


「ウォード、ありがとう」


 お礼を口にすると、ウォードは心当たりのない顔をする。



「昔、助けてくれて。ひろってもらったって言ったほうが、ぴったりかもだけど」

「別に、クリスティナのためにしたわけじゃない」

「私のため以外の理由なんて、ないでしょ」



 いたのはふたりだけだったから、私のためじゃないなら自分のため?

子供を助けたって、ウォードにいいことは何もないのにね。



「明日が本番だな」


ウォードが言うのは劇のこと。


「見てね。私、頑張るから!」

「そう張り切らずに普段通りがいいんじゃないか。張り切ることで動きが変わると、ケガに繋がる。見てるこっちが心配になるようなことは、止めてくれ」

「はぁい」


 見ないとは言わなかったことに満足して、クリスティナは頷いた。










「お帰りなさい、ティナちゃん。楽しかった?」


 フレイヤの笑顔の陰には気遣いが潜んでいた。

駆け寄って抱きついたクリスティナを抱きしめ返し、少し離れた所で見送るウォードに会釈する。



「探検でもしたの? 古い本みたいな匂いがしない?」


大当たり。


「ウォードと探検してきた」

「ご迷惑をおかけしたのね?」

「大丈夫、ウォードも行きたかったと思う」


 それは嘘だけど、偶然聞いてしまった会話に興味を示したのはクリスティナよりウォードだ。


 また明日、と言おうとクリスティナが振り返ると、ウォードの姿はなかった。



「山狩りの時にティナちゃんを保護してくださってたんですってね。お若いのに子供に優しいなんて、とても紳士だわ」

「俺は?」


 明日を迎える準備のすっかり整った舞台の裏から出てきたのは、レイ。


「レイさんも、もちろん紳士です」

「他の男を褒められると、気持ちがささくれる」


 真面目に言うから、フレイヤは困り顔になりクリスティナは吹き出し笑いをしてしまった。




 帰る道々、ウォードが思いついたように言っていたのだ。


「劇をまともに見たことがなかったのだが、大げさな動きとセリフばかりで成り立つのが普通なのか? それとも田舎向けに仰々しくしてあるのか」


「 『満天の星も、姫の美しさの前では輝きを失う』とか『なんてことかしら、あなたへの愛に心が震えるようだわ。私、あなたを愛しています』のこと?」

「――言って恥ずかしくないか?」

「全然」


 だって私が考えたんじゃなくて脚本家が作ったんだもん。そう思えば平気。


「レイは、まあまあフレイヤお姉さんに言ってる」


そう恥ずかしくもなさそうよ。と教えてあげる。


「見た目からは想像がつかない」


レイは硬派に見えると言いたいらしい。


「慣れじゃないかな。大人になると言えるんだよ、きっと」

「慣れ……」 


 そんなことじゃ結婚できないよ、とは言わないであげた。







 前庭館で夕食を済ませ、今日は早く寝ようと話しているところに、団員がクリスティナを呼びに来た。


「下に男の子が来ていますよ。『クリスに会いたい』って」


クリスティナとフレイヤは顔を見合わせた。



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