クリス町へゆく
夏の間に収穫した大量のスモモをジェシカがジャムにする。
町の食料品店に売りに行くのは野郎の仕事だ。
けれど、ふと思いついたようにジェシカがクリスティナに聞いた。
「前のが小さくなったから、この冬はクリスのセーターを編んでやらなきゃね。色、自分で選びたいかい」
町には毛糸屋さんがあって、色々な毛糸が売っているらしい。それは見たい。
「選びたい!」
「じゃ、一緒に行こうかね」
話は決まった。アンディは仕事があるので留守番だ。
野郎ひとりを馭者にして、クリスティナはジェシカと一緒に山をおりた。
「ここらはあまり壊されてない」
「他の町に比べるとよそ者が少ない」
大人の話を黙って聞きながら、クリスティナの頭は期待でいっぱいだ。
別の毛糸を買ってもらって、自分で手袋を編んでみたい。頑張れば靴下も編めそうな気がする。
「クリス、あれを見な」
急に言われた先にあるのは看板、小間物屋さんのようだ。二本足で立った熊が手招きする絵が描いてある。
「小間物屋さん」
字は読めます、と胸を張る。
「そう。熊がついてるの、見たね」
走る馬車からでも、あまり上手じゃない熊の絵はバッチリ見た。
「もし、迷子になったり困ることがあったら、熊の絵のついている店に行きな。で『ジェシカの娘だ』って言うんだよ。必ず助けてくれるから。分かった?」
「わかった」
手綱を握る野郎も頷いている。そちらへも「わかった」と言っていると、通りの反対側にも熊のついた看板を発見した。
「あっちにも熊!」
「この町には何軒もある。他の町にもいる、同志だ」
「どうし?」
知らない言葉だ。クリスティナにもわかるようにジェシカが言い換える。
「仲間ってことさ」
「どうして熊なの?」
「そりゃ、狼より強いのは熊だからさ。カラスじゃ熊に勝てないもんな」
野郎が口を挟む。それ、ぴぃちゃんが聞いたら、機嫌を悪くして頭を突っつくんじゃないかな。私以外には見えなくて良かったかも。
「あんまり大きな声で言うんじゃないよ、どこで誰が聞いてるか分かりゃしない」
小声でたしなめられ「すいません」と肩を狭める野郎を見て、クリスティナも熊印は知る人ぞ知る内緒のものなのだと理解した。
目当ての店の前で馬車が停まる。ジャムを買い取ってくれる食料品店だ。
ここの看板にも熊の形の彫り込みがあった。