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暗い通路の先・2

 寝台に近づけたのは、クリスティナの手の長さ分だけ。


「そこまでだ。布に害虫が巣食っていて刺されたらどうする」

「虫なんか慣れてる」


 山育ちだもん、私。クリスティナが大丈夫だと言っても、ウォードは無言で手を握ったまま。

引っ張りっこでは叶わないので、諦めるしかない。


「やっぱりお花を持ってくれば良かった」

「誰の目にも触れず枯れるだけだ」



 そりゃあ、そうだけど、そういうのじゃなくて。反論を飲み込んで部屋の中を見回す。


 子供の頃、奥様の使うお部屋はしょっちゅう出入りしていたけれど、主寝室は特別なお部屋なのでクリスティナが立ち入る機会はなかった。



 右の壁にも開け放たれた扉があり、居間や控えの間に繋がる造りだ。


 左壁の一角にぽっかりと暗い空間が口を開けていた。入室した時から気になっていた場所をしげしげと見る。



「ウォード、あれは隠し通路? 逃げる用?」



 舌打ちが聞こえた、はずはない。だってウォードが野郎どもみたいな下品な態度を取るわけがない。いかにもなお顔をしただけだ。



「外には繋がっていないそうだ」


 では、何用なのだろう。好奇心にかられて靴先を向けたクリスティナを、ウォードが引き止める。



「聞いてなかったのか、どこにも繋がっていない」

「忘れちゃったの? 『好きに歩いていい』って言ったの」



 厳しいお顔をしてもカッコいいだけだよ、ウォード。にんまり笑いで対抗したのに、ウォードはまだ諦めない。


「気味の悪い虫だらけだと思うが」

「暗くて見えないから、大丈夫じゃない? ね、ちょっとだけ行ってみたい」

「俺は嫌だ。ひとりで行け」

「え、一緒に行こう。絶対一緒」



 ぐいぐいと引っ張って固い決意を示すと、ウォードの唇の両端が下がる。


ひとりで行くのは、嫌なの。こんな時、

「アンディなら、嫌々でも来てくれた」


 そのへんにまだアンディいないかな、誘いに行こうかな。ちろりと見上げた顔は渋かった。



「入り口から、少しだけだ。いいな、俺が『ここまで』と言ったらそれで探検ごっこは終わりだ」


 嫌そうにあからさまに嫌気を出しているのが、もうクリスティナには笑えちゃう域。ウォード大好き。




 俺が先に立つ、と壁に開いた暗い通路へまずウォードが入った。上着の裾を掴んだクリスティナが続く。


「臭いっ」


 思わず叫ぶと「戻るか」とウォードが聞く。

湿気と埃、使っていない地下室のような匂いに腐臭が混じる。服に染みつきそうだ。


「もう少しだけ行く」


 外に通じていないというなら、何のために作られたのか。元は通じていたけれど、いつかの時代に先が封鎖されたか。



「ウォード、私なんかぐちゅっとしたものを踏んだ」

「舞台衣装を汚したと叱られても、俺はかばわないからな」


 

 たしかに。衣装は破れた時のために何着も用意してあるけれど、本番前に汚すのは避けたい。


「帰ろうかな」

上着を引っ張ったクリスティナを「静かに」とウォードが制した。



「?」

「声がする」


真剣に耳を澄ますと、切れ切れに会話が聞こえた。



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