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暗い通路の先・1

 アンディについて聞かれたら話そうと思うのに、つまらなそうに歩くだけ。


 私から話すのもなんだかね。クリスティナが考えているうちに、見覚えのある場所に差し掛かった。


「ここ……」


 懐かしさと緊張が入り混じる奇妙な気持ちは、初めて感じるもの。


足の止まったクリスティナに、ウォードが告げる。


「好きに歩くといい」



 埃っぽい匂いがするのは、お手入れをしていないせいだろう。荒らさずにいてくれるだけ温情がある、と良い方向に受け止める。


「ここ奥様のお部屋の近くみたい」



『あなたを道連れにするのはよくないことだわ』

 クリスティナを部屋の外に出した奥様が自害を決意なさっていたと、あの日のクリスティナは幼すぎて気がつけなかった。


分かっていたら止められただろうか。なにかできたかな。



「夫人が発見されたのは、主寝室だった」

「窓のないお部屋?」

「窓がない造りの主寝室はあまり聞かないから、窓はあるだろう」



 それなら、私をお部屋から出してご自分もあの暗い部屋から出たのだろう。伯爵夫人にふさわしく、お着替えもされたかもしれない。

 クリスティナの脳裏に、皺ひとつない寝台で目を閉じて横たわる奥様の姿が、見たことのように浮かぶ。



「行ってみたい」

「人が亡くなった場所に?」


 ウォードが眉をひそめるから、クリスティナはあえて普段通りの態度を取る。



「考えてみて、ウォード。この城砦がどれくらい前からあるか知らないけど、人の亡くなってない場所なんてないと思う」



 だって城砦って戦いに備えて建てるものでしょ。それで造ったせいで攻められるんでしょ。

でも、ここが私のおうちだった。



ウォードの瞳の色が深く濃く変わる。


「……こっちだ」



 先に立つ背中を見ながら、少しだけ寂しくなるのは置いていかれそうな気になるから。


 クリスティナは歩く速度を速めてウォードの手を取った。反射的にでも握ってくれたことにほっとし、離されないよう指にぎゅっと力を入れる。



 ウォード・ハートリー。伯爵様とエイベル様を追い詰めたハートリー。


「ウォード、人を殺したことはある?」


ウォードは振り返らない。


「殺したことはないが、傷つけたことはある」

「……仕方ないよね。それが戦闘だもん」

「正当化するつもりはない」

「でも、それがウォードのお仕事だもんね」



 ウォードがクリスティナを肩越しに見おろし、会話は途切れた。

 お仕事は何よりも優先される。メイジーお母さんが私ではなくシンシアお嬢様の手を取ったのも、お仕事だから。


 

「着いた、ここだ」

「お花を摘んでくれば良かった」


 重そうな音を立てて扉が開く。主寝室のカーテンは開け放たれていて、舞い上がった埃が窓から差す光できらめいた。

 


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