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あの日助けてくれた人は・1

 上演を明日に控え予行演習も無事に終えて、クリスティナは非常に満足していた。


 ちびっこ海賊役でセリフは少ない。ウォードには女優と言ったけれど男の子の役なので「私、女優なの」と胸を張っていいのか疑問は残る。



 まだ日暮れには間がある頃、クリスティナの元へウォードがやって来た。


「今なら、時間がある」

「お茶のお誘い?」


 本気で聞いたクリスティナは「いつも腹をすかせている」と言われて、慌てて打ち消す。


「ほら、時間がちょうどね」


何時でも食い気だろう、と聞こえたのは気のせい。



「城内を見たいと言っていただろう」

「いいの?」


 あの時はっきりとした返事をもらえなかったから、こっそりひとりで行こうと思っていた。一緒に行けるなら、本当に嬉しい。



「クリス、俺も行こうか?」


 こちらに背中を向けて演技指導に集中しているように見えたレイが、急に振り返った。


「大丈夫! ウォードと行くから」



 丁寧にお断りする。レイがお城のなかに興味があるのは分かる。しかしクリスティナとしては、ウォードとはたまにしか会えないので、ふたりで行きたい。


 レイがフレイヤお姉さんとふたりきりでお出かけしたい時には、邪魔しないからね。



「お忙しいところ、すみません」


 軽く頭を下げたレイにウォードは目礼で応じ、ちびっこ海賊姿のクリスティナを連れて歩き出した。


「ウォード、迷子になるといけないから手をつなぐ?」

「繋がない」


 







 

 城砦の雰囲気は、クリスティナのおぼろげな記憶にあるものとあまり変わらなかった。


 薄暗く窓が砂埃で曇っていて、装飾はどれも重々しい。フレイヤお姉さんのお家の可愛くて華やかな飾りのほうが何倍も素敵だと思う。


 理由もなく起こる身震いをこっそりと逃がして、後ろを歩くウォードを振り返る。



「どこに行こう、ウォード」

「行きたい場所があるんじゃないのか?」

「特別にはない」



 来てみて、当時の自分が暮らしていた範囲がいかに狭かったかを知った。

 門をいくつもくぐり、足の向くままに進んで階段を昇り降りしたのに「あ、ここ。懐かしい」と思う所に出ない。



 なんとなく、ここかなと思う階段の踊り場で足を止めた。クリスティナが探していたのは、ぴぃちゃんと初めて会った場所。

 


 階段にいた白い鳥。最初は迷い込んだのだと思った。羽先の銀鼠色は、クリスティナの目の前で大好きな桃色に変わった。


 おしゃべりに耳を傾けてくれ、ちょうどいい具合に頷いてくれるぴぃちゃんが、どれほど心強かったことか。あれからずっと仲良しだ。



「この階段が、どうかしたか」

「私が助けてもらったのは、ここだと思うの」

「……別の場所だと思うが。この階段は閉鎖されていたはずだ」



 遠慮がちに否定された。ぴぃちゃんに聞けばすぐに分かる――かもしれない――のに、やだ私間違えちゃったみたい。


 照れ隠しにクリスティナが笑うと、ウォードは痛ましいものでも見るような眼差しになった。



いたたまれない気持ちで口にする。


「ね、ウォード。私を助けてくれたのはウォードでしょ。きっとそう、絶対にそう」



 笑い飛ばして欲しくて軽口をたたいたつもりが、なぜか沈黙を呼んだ。


 たくさんの人が傷ついた城で不謹慎だったか。また失敗しちゃったかも。

視線を足元に落としたクリスティナの耳に、抑えた声が響く。



「エイベルだと思いたかったのだろう。――いいのか?」



 どういう意味? 急ぎ見上げたウォードの表情は、ちょうど陰になり読み取れない。

あの日のことが、一気に思い出された。



「ついていた血はウォードのものじゃないって言ったのに、いつお顔にケガをしたの? 」



 確信めいたものを感じながら口にしたクリスティナの前で、ウォードはゆっくりと目を閉じた。



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