アンディはロマンチスト
クローバーは家畜の餌になる。乾燥させて詰め物にしてもいいし、なんとお茶にもなる。
クリスティナはおいしいとは思わないけれど、飲めなくはない。
「花冠を作りたい? 五十本くらいいるし時間がかかるわりにはキレイじゃなくても、アンディが体験したいなら教えてあげる」
クリスティナの説明にアンディの顔が曇る。
「物語の女の子はみんな花冠が好きそうだったのに」
「アンディが作りたいなら、つきあう」
「いいよ、もう」
やっぱりアンディはロマンチストだ。長い髪を三つ編みにでもした田舎の女の子が主人公で、花冠を作る素敵な場面があるのだろう、挿し絵つきのご本に。
私の髪は短くて男の子みたいだし。クリスティナはがっかりさせて申し訳ない気持ちに、少しだけなる。
だからお詫びに秘密基地へ案内した。
「これ、最高だね」
「でしょ」
誉められたのが嬉しくて、お鼻がぴくってしちゃう。クリスティナはそっと鼻を押さえた。
アンディが上を見、下を覗きしているのは「どんぐりの木のおうち」だ。
どっしりとした冬も葉の落ちない木の上に作られた、板張りの小さく簡素なツリーハウス。
緊急時には避難場所になる。
窓のない暗いお部屋に隠れるよりずっといい、とクリスティナは思っていた。
いつ何があるかわからない。アンディがひとりでいる時に隠れなければならなくなったら、ひとまずここに来れば、そうは見つからない。少しの食べ物と寝床がある。
他にある「クスノキのおうち」や別のどんぐりの木のおうちも、順に教えてあげようと思う。
「クリス、手を出して」
言われて反射的に両手を揃えて出すと、「片手でいいよ」と笑われた。
クリスティナの左手首に、白いクローバーの花とよつ葉がくるりと巻かれる。
「ほら、ブレスレット。これなら時間もかからない」
「……ありがと」
「どういたしまして」
いつの間によつ葉を見つけたんだろう。不思議でしかたがない。
「これにも花言葉ってあるのかな」
思いつきのように聞かれた。
「ないと思う。草だもん」
「……」
明るく嘘をついた。クローバーのよつ葉は「幸運」だから言えるけれど、白い花は「復讐」。
花言葉はいくつもあるのに、アンディに聞かれるのは偶然にも「復讐」が多い。
そういう土地柄なのかもしれなかった。
「茶色くならないといいのに」
「また、結んであげるよ」
胸がほわっとする。言いたい、今言いたい。
「アンディ、一緒に大きくなろうね。ずっと仲良しで。お返事はいらない」
ぷいっと横を向いたクリスティナに、笑う気配がした。