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会計係フレイヤ、副団長に会う

 フレイヤは停車中の馬車を横目に城門まで歩く途中で、青果類を山と積んだ荷馬車に乗る人に状況を尋ねた。


「昼前に着いたけど、この分だと夕暮れまでかかりそうだ」


 とんでもないことを教えてくれる。劇団員には女性も多く馬車で夜を越すなどあり得ない。


 レイが戻ったとしても、ルウェリン家の息子であることは伏せているし、山賊として暮らしていたことがあるくらいだ。警備を担当している兵のなかに彼の顔を知っている者がいる可能性もあり、できるだけおとなしくしておきたいところ。



 考えているうちに城門に着いた。馬車や持ち物の検分を担う人数は、素人目にも不足しているように見える。


 文句を言わずに待っている人々の忍耐力に感服するわ。

フレイヤは責任者を目で探した。みな似たりよったりの服装雰囲気で、上役がいないように感じる。


 下っ端に言ったところで受け付けてもらえない。これは、ここではなく城内で誰か見つけるべきでは?

 通してもらうのに、ちょっとした「贈り物」つまり小銭などは有効なのだろうか。いきなりチラつかせて逆効果でも困る。



 兵の仕事ぶりを眺めて、穏やかそうなひとりを見定め、笑顔を添えて声をかける。


「すみません。王都劇場の者ですが、責任者の方にご挨拶申し上げたいのですが」


 愛想笑いに見えない愛想笑いなら自信がある。効果はあったらしい、彼は仕事の手を止めてくれた。


「ここには、いません」


 そうですよね。でしたら……を口にださずに、笑顔を親しげなものに変える。


「では、お城ににいらっしゃる? ご案内をお願いするのは気がひけます。ここを通してくださったら自分で探しますわ、その方のお名前は?」

「あなたは女優さんですか」



 いや、私に見惚れてくれなくていいの。フレイヤの言葉より先に。


「それでしたら、ちょうど副団長がいらっしゃるところです」


 副団長? 彼の視線の先はフレイヤを通り越しての後ろ。振り返ると、足早に近づく男性がいる。


 彼が副団長? 見た目はとても若い。でもただ者じゃない存在感がある。目を引くのは黒革の眼帯。レイに比べると細身ではあるが、まさか歴戦のツワモノであるとか。



 勝手な想像をするフレイヤの前まで来て、副団長は足を止めた。ここは先制すべきところ。


「副団長様、このたびは王都劇場をお招きいただきましてありがとうございます。責任者のフレイヤ・スケリットです、以後よろしくお願いいたします」



 会計係と書いて責任者と読むことにする。肩書きがモノを言うのはいずこも同じだから。


 女が責任者? と怪訝な顔をされると予想していたのに、若き副団長は眉ひとつ動かさなかった。



「遠路ようこそ。警備を担当するハートリーです。おひとりで、どうかされましたか」


 フレイヤは、前もって考えていた説明をした。説得が必要だと覚悟していたのに、ハートリー副団長は飲み込みが早かった。


「馬車はご覧のように並んでいますので先にお通しできません。開口幅が狭いので」


 言われてみれば防衛面に配慮してか門の幅は狭い。でもこのままにしては、おけない。地元民と違い劇団員はひ弱なのだ。



「困りましたわ」


 頬に指を添えて不安そうにしてみせる。成り行きを見守っていた兵が「副団長」と、取りなすような声を上げてくれた。



「――すぐに必要な荷物だけ先に人力で運ぶなら、通行を許可します。何人か手伝わせましょう」

「ご判断に感謝申し上げます」



 あらまあ。思ったより融通がきくことに内心驚きながら急いで礼を言い、改めて副団長を見る。


 騎士四家については、ティナちゃんに詳しく教えてもらっている。この若さで副団長ならば、間違いなく山猫を屋号とするハートリー家のご子息でいらっしゃる。


 山猫の名は、にゃーごちゃん。ダー君が来てご迷惑をかけなければいいけれど。

目下のところ一番の心配は、そこかもしれなかった。



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