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クリスティナの城砦

 五歳で城砦を出て今は十歳になるクリスティナにとって、五年はとても長い年月。


 ジェシカ母さんに連れられて出てから、ここへ来るのは初めて。城門の近くまで来て「思ったのと違う」と感じた。


 ああ、そうか。覚えている全景は山賊として暮らしていた山から見たもの。

住んでいた時は城砦の外に出ることがなかったから、違う場所みたいに思うのだろうと、ひとり納得する。



 後発組の馬車が門の外に長く待たされているのは、他の馬車も含めて、城門をくぐるのに念入りな検問をしているから。


 その間、窓から顔を出して辺りを眺め続けるクリスティナを隣に座るフレイヤが気遣う。



「気分が悪い? それとも辛い? 気がすすまないのなら、無理なんてする必要はないのよ。舞台も」


 すごく心配させてしまったみたい。クリスティナは急いで座席に戻った。



「全然! 知らない所みたいだなって、覚えている場所を探していただけ」


 発言を信じていない顔に向けて、目をきょろりとさせる。

城砦の内には、木立や池、畑、厩舎、五歳のクリスティナから見ればなんでも揃っていて、とてもとても広かった。



「ここにいたのはずっと前で子供の頃だから」


 あまり覚えていなくても仕方がないのだと、言い訳などしてみると、黙って聞いていたフレイヤから安堵の気配がした。



「辛いことを思い出してしまうのではないかと、心配していたの。私もレイさんも」

「来たいって言ったのは、私なのに?」

「それでも」



 多くは語らず肩に手を置いて頭を優しく撫でてくれるフレイヤお姉さんが、クリスティナは大好き。



 しばらくそのままでいて「さて」と、フレイヤがひと呼吸した。


「少しも進まないわね。こちらは仕事をしに来ているのに、招かれざる者のように扱われるのはおかしい。不当だわ」


 おお、お姉さんがきりりと格好良くなっている。クリスティナは固唾をのんだ。



「抗議してきます。ティナちゃん、ひとりにしても大丈夫? 馬車から降りてはダメだし、お外から誰かに話しかけられてもお返事しないで欲しいのだけれど」


 格好いいけれど、お姉さんは美人さんだから男どもにひとりで対応するのは、止めたほうがいいような気が。



「レイに行ってもらえば?」

「レイさんには町でのお買い物と告知をお願いしたから、別行動なの」



 クリスティナの提案はあっさりと退けられた。レイがいないなら、お姉さんひとりはますます心配だ。


「なら、私も行こうか」

「大丈夫。特別に便宜を図ってもらおうというのじゃない、当然のことを当然のようにして欲しいとお願いするだけだもの。こういうのはね、女が言うほうが角が立たないものなのよ」


 きれいに左右対称に口角が上がる様子に、クリスティナは見惚れた。



「ね、ひたすら長文でまくしたてるイヴリン風と普通の話し方、どっちがいいと思う?」

「普通」


 私もそう思う、とフレイヤは笑い、優雅な身のこなしで馬車を降りていった。


 

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