お留守番のつもりでしたが
クリスティナと話していて、フレイヤも巡業に同行する前提であると気がついた。
レイが里帰りと用心棒を兼ねて巡業に同行することになっているので、フレイヤが行かなくてもなんの心配もない。
「私はお留守番よ」
「え? イヴリンさんがお宿の部屋割りをして『男女は別だけど、ティナちゃんご一家は一緒でいいわね』って言ったから『はい』って言っちゃった」
なんですって?
とは言うものの思い当たるふしはあった。
お金の管理から現地での突発的な問題の対処までひとりでするのは大変過ぎる。と、先日、イヴリンが繰り返し言いながら思わせぶりにちらちらとこちらを見ていた。
『従姉妹って誰より信頼できるわよね。生まれた時からの付き合いだから、お金の持ち逃げをしないのは知ってるし、息もぴったり。姉妹は血を見る喧嘩がしょっちゅうだけど、従姉妹ならそれもない。私達助け合いましょうね』
姉妹喧嘩がそれほど壮絶かどうかは知らないが。
イヴリンは、マイルス・マクギリス氏についての情報提供も含めて、借りを返す時じゃない? と圧をかけてきている。
眉間に皺を寄せて黙り込むフレイヤを、クリスティナが窺うようにして。
「家出したことを、ラング様にちゃんと謝ってないでしょう、私。ご挨拶もなしにごめんなさいって言うつもりはあるんだけど……フレイヤお姉さんも一緒だと勇気が出るなって」
「うっ」
フレイヤの口からうめき声があがった。それが嫌で行きたくなかったなどと、健気な子供に言えようか。
ルウェリン城へ残してきた荷物は王都の自宅へ届けられた。本来ならば御礼状を書くべきところを、レイさんが何もしなくていいというので、それを口実に省略してしまった。
クリスティナに痛いところをつかれた感じだ。本当に痛い気がする。
子供の白目はくすみがなく、青みを帯びていると感じるほど白い。真っ直ぐに見つめられると心の内を見透かされているよう。
「そうね。それは私も同じだから、ふたりで行きましょうか」
ここは潔く諦めるところ。安心したのか、クリスティナは一気に笑顔になる。
行きたくない、ああ本当に行きたくない。などと言える雰囲気は皆無。巡業なんてなければよかったのに、と往生際も悪くうじうじとする。
楽しみにしているクリスティナには、口が裂けても言えないけれど。
ジョナサンにも私が行くことを知らせなくては、と思いながら、フレイヤは旅の準備の面倒さに遠い目をした。




