愛娘の将来設計
短髪に髭面が野郎どもの特徴。オヤジを尊敬して真似ているのもあるが、個性を消し相手の記憶に残りにくくする意図もある。
ぱっと見似通った野郎どもを、ジェシカが間違えることはない。
今、外から戻ったのはベンジーだ。暑い日なので水を出してやる。
「アンディは」
出掛ける時は一緒だったはずだ。
「クリスが呼びに来て一緒にクローバーを摘みに行きましたよ」
一気に飲み干したベンジーが言うのを聞き、そういえばとジェシカは思い出した。
「クリスは帽子をかぶってたかい?」
「はい。アンディがうるさいですからね」
かぶっていたとベンジーが笑う。アンディは真面目だ。クリスの頭に帽子がなければ取りに戻るだろう。
飲み終わったらとっとと出て行くかと思ったベンジーは、手の内でコップをもて余すようにし立ち去ろうとしない。
「なんか言いたいことでも?」
「……アンディなんですが、このまんまお客さん扱いでいくんですかね」
意外なことを言い出した。ジェシカの視線を真っ向から受け止めたベンジーに不満の色はない。
道に倒れていたアンディをここまで運んだのがベンジーだ。
大柄で見目はいかついけれど、女子供に優しいと誰もが口を揃える。そしてムダな話をしない。
ジェシカは少し迷ってから、話すことにした。
「まだなんとも言えないけど、クリスを学校へやる時にアンディをつけてやったらどうかと思って」
教養をつけるには早いうちからがいいと思うジェシカと、「戦の混乱が落ち着ききっていないのにまだ小さいクリスを手元から離せるか」と声を荒げるオヤジとで、意見は対立している。
自分がついていってやってもいいともジェシカは思ったが、学校に通わせる親は同世代。顔見知りに会うのは避けたい。
妙案が欲しかったところに、アンディを拾った。
詳しくは語らないが弟か妹がいるのだろう、面倒見がいい。山賊相手に家の情報を与えない賢さも、ジェシカには好ましい。
なによりクリスが懐いている。
「まあ、本人が家に帰りたがったらどうしようもない」
一年経ってもここにいたら、クリスにつけて町へ出そうかと思っている。
クリスひとりでなければ、渋々だろうがオヤジも認めるはずだ。
ふと気が向いた。
「ベンジーは、どう思う?」
しばらく黙して、ベンジーは口を開いた。
「オヤジの心配も分かるし、おっかさんの考えももっともだ。奉公でなくて学校なら早い方がいと思います」
「さすが、学のある男は言うことが違うね」
「茶化さないでくださいよ。アンディと兄妹ってことにすれば、身元もまた少し分かりにくくなるんじゃないですか」
話が分かる男はいい。空いたコップに麦酒をなみなみと注いでやる。
「世間が落ち着いてくれば、戦い方も必要な能力も変わってきます」
半分飲んだところでベンジーが呟く。
頭を使うことが不得手でも、世を渡り生き残るには頭を使わねば。ジェシカも麦酒をぐびりと飲んだ。