だとしたら?・4
それは嬉しいのか。
ラング・ルウェリンが男爵位を賜ったと聞いた時のウォードの感想は、そのまま顔に出たらしい。
届いた報告の手紙を先に読んだと思われるブレアが苦笑している。
「これは周知のことか?」
「まだ、各家には知らせていないようです」
知らせてきたのは、ルウェリン家の使用人として働いているハートリーの協力者。というよりブレアが配下として潜り込ませた者だ。
その者によれば、使用人頭の補佐として即戦力という触れ込みで雇い入れた男が言葉通り優秀で、ルウェリン家に不足している儀礼的知識や社交を補っているという。
「田舎に、そのような男が都合よく現れるものか?」
ウォードの疑問をブレアが引き取る。
「ルウェリンの長子が王都に移住したそうですから、公になる前に叙爵が知られていても不思議はないでしょう」
耳の早い者が聞きつけ人より先に職を得た、ということか。
「それとは別に」
「分かっている」
ブレアの話を封じたウォードは、顔に露骨に嫌気を出した。
数日前に父から、ウィストン家の所有する城砦、つまりあの城砦で初めて地域住人を招いての催しを開くことになった、という知らせが届いた。
地域の復興は順調で、反ハートリー派による不穏な動きはない。
これまで控えてきた祝勝会をして、この一帯を治めるのがウィストンであることを強調するためのものだ。
「なにも一般人を前庭まで入れずとも、催事は町の広場でもよいと思うが」
「おかしな動きをする者があれば一網打尽に、とウィストン伯から正式に命を受けております」
父が警護団団長、副団長はウォードとブレア。
一連行事の賓客として招くのはアガラス。主がマクギリスでなくなってから城砦を訪れるのは初めてとのことだった。
他に地方の有力者を招待する聞いている。応じなければ腹に一物ありと思われるのを恐れて、ほとんどの者が出席すると予想される。
「若様のお相手探しも含まれておりますよ」
ブレア明るい表情に対しウォードの態度は舌打ちせんばかりだが、慣れたものでブレアは動じない。
男子十八。そろそろそんな話も聞こえてくる頃。
家格と年齢の釣り合う相手を親がみつくろうのが通例である。本人の意見など通りはしない。
「面倒だな」
誰の機嫌を取るのも。
「結婚とはよいものですよ」
「独り身がそれを言うな」
ブレアは独身。兄が家を継いでいるので自身は気楽な身だ。
「まあ、それは。私と違い若様には跡継ぎを残すという大役がございますからね」
ひとり息子であるウォードは、家を絶やさぬために結婚を避けては通れない。
それでもマクギリスのように父子揃って戦に散ることもある、と城砦での日々を久しぶりに思い出す。
血の赤に染まる城砦の記憶から繋がるのは幼いクリスティナの諦めきった白い顔。
そこで終わりにせず、再会したマクギリス家の墓所での場面、ルウェリン領の山での逞しい姿まで思い浮かべる。
王都にあるナニースクールへ通いたいと語っていた。
普通なら叶わないと一笑するところだが、ルウェリンの長子と王都にいると聞いている、可能だろう。入学はこの秋か。
「城砦で仕事を終えたら、王都へ行く暇はあるか?」
突然の問いかけに、ブレアはひと呼吸おいたが頷いた。
「作りましょう」
ナニースクールまで訪ねて来いと要求していたクリスティナを思い出す。
本当に行ったら、あのくっきりとした目を見開くだろうか。いや、案外当然のような顔をするかもしれないと思い直す。
元気に王都で過ごしているだろうか。




